武豊町自然公園を歩く

知多半島の中央より少し南に位置する、武豊町自然公園。昨年12月、例年のごとく新しい観察地を探して各地を回っていて、これまで気になっていたが訪ねたことが無かった、この自然公園を歩いてみた。その日は、広くて植物の変化に富んだ良い森だな、という印象だった。そのうちに、また来よう、と思いながらも、今年の5月まで再訪する機会がなかった。

春になり、5月に訪ねてみて、驚いた。松林でハルゼミが鳴いていたのである。ハルゼミは新美南吉の童話にも「松蝉」という名で登場し、春を代表する昆虫である。一斉に鳴いては消えてを繰り返す、柔らかな蝉しぐれは、かつて身近な「春の音」だったが、ハルゼミの生息する松林は、知多半島に限らず、松枯れや伐採によってずいぶん減少している。毎年気にしていて、ようやくここで音を聞くことができた。松の木の上の方で鳴いているので、なかなか姿を見ることができないが、たまたま生きているオスも下に落ちていた。

そんなきっかけが一つあると、途端に、その森が大切に思えてくる。これも、縁なのだと思う。そうしてこれまで、毎年のように、少しずつ観察地を増やしてきた。

半年近くが経ち、自然公園も親しみある観察地になってきた。訪ねる度に、その時々の発見があって、楽しい。これまでの印象的な出来事を記しておくと、5月には、ヒバカリと出会った。田んぼの近くに暮らす、体長40センチほどの小型のヘビで、オタマジャクシなどを食べる。家に連れて帰って来たが、近くにオタマジャクシがいるような場所は無い。思案していると、市内の緑地の水路に、ウシガエルのオタマジャクシがいるということで、大変有難いことに、それを持ってきて頂き、エサにした。だが、とにかく食べる量が多いので、武豊に返すまで大変だった。同じ日にルリタテハの幼虫も連れて帰ったが、こちらは家で蛹になった。だが、5カ月近く経った今も蛹のままである。羽化はもう難しいかもしれない。

6月の田んぼには、コオイムシがいたり、ゲンゴロウの仲間やマツモムシが泳ぎ回っていたり、にぎやかな田の風景があった。トンボも夏にかけて数多くあらわれた。「夏の観察会」では、「カブトムシを見つけたい」という小学2年生の男の子が参加してくれた。カブトムシは見つからなかったが、コナラの木にノコギリクワガタを見つけて、みんなで喜ぶ。アカガエルと出会い、海の見える展望台がある広場の東屋で、そろってお弁当を食べ、真っ赤なホシベニカミキリも見つけて、のどかで楽しい雑木林の散策となった。

7月。瀬戸で変形菌の調査をされている先生と一緒に変形菌を探した。森の環境、植生を気にしながら、落ち葉の積もる林床を確認して歩く。探している珍種、ツツスワリホコリは発見できなかったが、変形菌という、気にしていなかった存在に目が向くきっかけとなり、その後、ムラサキホコリの仲間、バークレイホネホコリ、エダナシツノホコリ、ツノホコリ、アカモジホコリ、シロウツボホコリ(?)、ムラサキカビモドキ(細胞性粘菌といい、変形菌ではないのだが、変形菌に似た存在)など、少しずつ見つけられるようになってきた。

8月には、たくさんの昆虫と出会った。とくに10日は多く、古窯跡付近では、木の上からスズメバチが絡み合いながら落ちてきて、驚いた。地面に落ちてからもしばらく組み合っていたのだが、喧嘩をしていたのだろうか? 木の幹にはヨコヅナサシガメの幼虫。ひらひらと透き通る翅で林内を舞っていたのは、クサカゲロウ科の最大種、アミメクサカゲロウ。他のクサカゲロウよりも明らかに大きいので、すぐに判別できる。

この日に確認したトンボの仲間は、ウスバキトンボ、ヒメアカネ、アキアカネ、コノシメトンボ、シオカラトンボ、オオシオカラトンボ、コシアキトンボ、ハグロトンボ、ギンヤンマ、カトリヤンマ、ホソミイトトンボ。チョウの仲間は、ルリシジミ、ムラサキシジミ、ウラギンシジミ、キアゲハ、アオスジアゲハ、キマダラヒカゲ、コノマチョウ、イシガケチョウ、コミスジ、イチモンジセセリ、テングチョウ、種は確認できなかったが黒いアゲハチョウ。ほかに、ヤブキリ、ツマグロバッタ、クサギカメムシなど。別の日には、直翅類ではあるが、鳴くための翅をもたないハネナシコロギスが草むらの葉の上にいた。

10月になり、林内ではツクツクボウシが、まだ鳴いている。昼間でもハラオカメコオロギやクチキコオロギ、カネタタキの音が聞こえてくる。クサヒバリの音も樹上から聞こえるようになった。秋の森。まだまだやぶ蚊が多いのが悩みどころであるが、晩秋から冬にかけて、どんな出会いがあるのか楽しみにして、また訪ねようと思う。

 

 

第四回出版文化を考える会

10月19日(土)開催の「はなやすり出版文化を考える会」のお知らせです。

第四回となる今回の内容は、

〇題目1「文学者を知る11~20」
〇題目2「和紙産業と出版活動」

と題し、考えます。

題目1で取り上げる文学者は、重要文学者一覧(下記、PDFをご覧ください)をご確認ください。今回は、「高浜虚子」「薄田泣菫」「若山牧水」「浜田広介」「宮沢賢治」「金子みすゞ」「島木健作」「草野心平」「飯田龍太」「知里幸恵」を取り上げる予定です。初めての方は、第二回、第三回のまとめの記事内に、「文学者を知る1~10」の資料がありますので、ご覧ください。

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第三回のまとめはこちら

第二回のまとめはこちら

題目2では「和紙」について考えます。全国には、およそ70か所以上の和紙の里があります。かつてはもっとありましたが、洋紙の登場や生産の機械化により、自然の循環を活かして営まれる和紙の生産を続けている地域は、大きく減っています。

和紙を重要な伝統産業と捉えている地域では、岐阜県の美濃和紙は、紙を漉く職人だけでなく、和紙の生産に用いられる道具を作る職人も地域に暮らしており、土地の自然とともに産業が成立しています。長野県には、全村で和紙の生産をしていた村があり、現在は伝統を継承する活動している方々がおられます。

和紙の技術を活かした新たな取り組みも生まれています。青森県の津軽には、廃棄していたリンゴの枝を用いて紙を漉き、出来上がった和紙を使って工芸品を作っている地域があります。世界に目を向ければ、アフリカなどで生産されるバナナの葉を使ったバナナペーパーも日本の和紙生産技術が応用されています。

和紙の文化を学び、出版が担う役割について考えます。

 

<会場>

名古屋国際会議場 会議室433

会場のホームページはこちら

<日時>

2024年10月19日(土) 13:15開始 16:30終了 ※途中、休憩を入れます。

<参加資格>

①1977年1月1日以降生まれの方

②出版に関する知識は、まずは必要ありません。豊富な知識よりも出版について興味・関心があり、ご自身の様々な体験を通した経験をもとに、話し合いに参加できる方を歓迎します。話し合いに参加して、今、取り組んでいる活動や、携わっている仕事に活かしたい方、出版社がつくられていく過程を目の当たりに出来るという稀な機会を一緒に楽しみながら考えたい方も、ぜひお越しください。

<参加費用>

1,500円(会場費、資料費等に使用します)

<定員>

15名

<懇親会>

終了後、懇親会を予定しています(17:30~19:00、場所:コメダ珈琲店)。お気軽にご参加ください。

 

参加のお申込はこちら

 

「秋の観察会 in 富貴」のお知らせ

夏に続き、2回目となる武豊町・富貴での観察会です。知多半島の内陸部は、南北に半島の背とも言える小高い山が続き、雑木林が残っています。武豊町自然公園もその一つです。5月には松林でハルゼミが鳴いており、6月の観察会では、ノコギリクワガタやコクワガタを見つけました。夏の間にぎやかだったセミたちは、そろそろ鳴き終わる頃です。雑木林に訪れた静かな秋を感じながら、観察して歩きます。(写真は9月に撮影。下の写真は雑木林に生息する鳴く虫、ササキリ)

〇日程/2024年10月6日(日)

〇時間/13:30集合~15:30頃、終了予定 ※場合によっては30分ほど延長することもあります。余裕をもってご参加ください。

〇集合場所/武豊町自然公園・駐車場 地図はこちら

※自動車の場合は、武豊自然公園南門の駐車場にお越しください。場所が分かりにくいため、不安な方は分かりやすい場所で待ち合わせますので、お知らせください。電車の場合は、最寄りが「富貴」駅になります。13:13着の電車(河和行き、急行)でお越しいただけましたら迎えに行きますので、その旨お知らせください。駅からは車で7~8分ほどです。

〇費用/無料

〇その他/観察会の前に、お弁当など昼食をとられる方は、各自ご用意ください。トイレは展望広場にありますが、なるべく済ませてからお越しください。やぶ蚊の対策(虫よけスプレー、長袖、蚊取り線香など)をお願いします。少し長い距離(約2キロ)を歩きながらの観察となります。汚れてもよい、歩きやすい靴でお越しください。メモを取る場合は、筆記用具をご用意ください。虫捕りをしたい方は、虫かご、虫捕り網などをご用意ください。

★予定の変更など/開催日の前に、予定の変更など、ご連絡をする事があります。その場合は、お申し込みいただいたメールアドレスにご連絡しますので、お手数ですが、当日の前に一度メールをご確認ください。よろしくお願い致します。

 

お申し込みはこちらから

 

喬木村と日本橋

8月に、喬木村にある椋鳩十記念館・記念図書館を訪ねた。「はなやすり」にも文章を寄せてくださった前館長、菅沼利光さんによる文学講座「ああ! 椋鳩十は詩人だったんだ」を聞くことが目的だった。少し早く着いたので、記念館の裏山の上にある、とろりんこ公園まで登ることにした。ここには、椋鳩十の詩碑が建てられている。「夕陽がうすれていく 蜩が今日の終りを呼びとめてゐる」。毎年夏になると、「カナカナカナカナ……」と夕暮れに鳴くヒグラシの音が聞きたくなるのだが、名古屋や知多半島では聞くことができない。ここ数年、8月に下伊那に来ているのだが、こちらでも、まだ聞けていない。調べてみると、夏の終わりに鳴くイメージだったが、一番よく鳴いているのは7月とのことだった。

記念館に到着し、館長の木下さんと少しお話をする。階段下のテーブルでくつろいでいる猫館長のムクニャンにも挨拶して、2階の視聴覚室に上がる。次第に聴講の人たちが増えていき、部屋はいっぱいになった。

「椋鳩十の詩」についての講演が始まる。椋鳩十は「動物と人の関わりを描いた物語作家」というイメージが一般的に定着しているが、若い頃は詩に憧れて、自分でも詩集を作っていた。青年時代に、どのような詩に憧れ、自分の表現を目指していたのか、熱量が高く、それでいて、知的探求心を刺激される話が展開される。後年の物語に登場する美しい色や、個性的な擬音表現のベースが若き日の詩作によって生まれていることを実感でき、さらに、椋鳩十が生きた時代の詩人たちや当時の詩の状況も知れて、充実した2時間の講座だった。

終わった後、少し時間があったので、図書館の本棚を観たりしていると、チラシや案内などが置いてあるロビーの壁に掛けてある額が目に留まった。そこには中国のことわざと芭蕉の言葉を引いて、自然を観察する大切さを説いた、椋鳩十の言葉が書かれていた。

「中国の言葉に『方の外に遊ぶ』というのがある。芭蕉はこのことを『角(※格)に入って角(※格)に出でよ』と言った。方というのは四角四面、融通がきかないということ。ものを覚えたら、もうそれだけだ。(中略)山道を歩いていく。枯れた木がある。葉の落ちた木がある。雪が積もっている。その木の下に、指の先ほど赤い血がぽつんと落ちている。あら、血が落ちておるな、小指の先ほどの小さな血だな、そう思ってみただけでは目で見ただけで、これが、この木の枝の上に雀がいたのかな、鳩がいたのかもしれない、あるいは何か他の小鳥がいたのかな、その小鳥が昨晩のうちにフクロウに襲われたその残りの血かな、あるいはテンに襲われた残り血かな、そう思ってみただけでも、自然の摂理というものが浮かんでくる。方の外で遊ぶというのは、こういう広い心をもってものを見なければ、自然は本当の姿を、今目に見えている向こうにある姿を見せないぞ、こういうことを言っている」

9月に入り、日帰りで東京に行った。主な用事は午後からだったので、午前中は日本橋にある美術館を訪ねることにした。三連休で新幹線は混雑していたが、プラットフォームを先頭車両の先、日本橋方面の出口へと下りていく人は少ない。東京駅を出て永代通りを歩く。残暑ではあったが、名古屋よりも幾分カラッとしていて、ビル風も吹いていた。数分で石造りの日本橋が見えてきた。欄干では麒麟の像が、橋を見守っている。

年始の箱根駅伝でもよく知られている日本橋には、これまで縁が無く、東京駅の近郊にありながら、訪ねる機会が無かった。日本の東西をつなぐ交通の大動脈・東海道の東の起点である。ここから西の起点である京都の三条大橋に至るまでに53の宿場があり、東海道五十三次と呼ばれる。熱田の宮宿は、41番目にあたる。

現在でも日本橋は全国に伸びる国道の起点となっている。橋のたもとには、里程標の石碑が置かれて、主要都市までの距離が記してある。抜粋すると「千葉市 三七粁」「仙台市 三五〇粁」「名古屋市 三七〇粁」「京都市 五〇三粁」「鹿児島市 一、四六九粁」。

芭蕉は故郷である松阪から上京し、江戸でもっともにぎわいのある日本橋で8年間暮らしていた。俳諧の師匠である宗匠として独り立ちした時、「発句也 松尾桃青 宿の春」という句をこの地で詠んだ。その後、隅田川の対岸、鄙びた土地である深川に居を構え、日本橋を拠点にして各地へ旅に出た。東の果ては、平泉。平泉で詠んだのは「夏草や兵どもが夢の跡」。西の果ては、明石。明石で詠んだのは「蛸壺やはかなき夢を夏の月」。若さ溢れる旅立ちの春、強者が去り、はかない香りが漂う夏。では、秋は……。

 

SCENE in the pen. 078

“Cricket in decaying tree”

In the lingering summer heat, I visited the forest on the beginning. The forest was first one visited for this observation five years ago. I walked up the hill in the forest and put my hands together in front of a small shrine. When I turned around, a cricket popped up in the grass. It was a cricket living in a decaying tree. I hadn’t met him yet, so I wonder if he had gone out of his way to come out and see me. [September 2024]

Duolandrevus ivani

クチキコオロギは、枯れ木の樹皮の裏などに生息しており、体長はエンマコオロギと同じか、少し大きいくらいのサイズですが、翅が短いのですぐに分かります。一年を通して、活動しています。

 

9月・10月の観察会スケジュール

9月に入りましたが、まだまだ暑い日が続いています。8月下旬、9月上旬に名古屋市北区西味鋺と阿久比町で「鳴く虫の観察会」を開催し、秋の観察会シーズンが始まりました。9月、10月の観察会は、以下の通り、予定しています。たくさんのご参加をお待ちしております。

 

「第5回 椋鳩十を読む会」※終了しました。

日時:9/21(土) 13:00~17:00

場所:昭和生涯学習センター・視聴覚室

◇奇数月第三土曜日に開催している「椋鳩十を読む会」。今回は「クマバチそうどう」を読みます。また、椋鳩十の詩を歌にした唱歌を練習します(今回はグランドピアノを使用します)。

 

「鳴く虫の観察会」※終了しました。

日時:9/22(日・祝) 18:30~20:00頃終了予定

場所:阿久比町役場付近の田んぼ

◇9/7に続き、阿久比町での「鳴く虫の観察会」です。秋分の日を迎え、秋の雰囲気も深まってきた田んぼ周辺を散歩して、虫の音に耳を傾けます。

 

「秋の観察会」

日時:10/6(日)  13:30~15:30頃終了予定

場所:武豊町自然公園

◇6月に続き、武豊町自然公園で観察会を開催します。10月に入り、ツクツクボウシも鳴き終えて、静かになった雑木林を散策します。どのような花や虫たちと出会うでしょうか。秋の気配を感じながら、観察します。

●参加のお申込は、9月下旬に内容の詳細を掲載します。

 

「第21回 西味鋺観察会」

日時:10/26(土) 10:00~12:00 ※日にちが変更になりました。

場所:矢田川・水辺の広場(西味鋺コミュニティセンター集合)

◇名古屋市北区で開催している「西味鋺観察会」。地域に暮らしている親子の方たちが毎回参加して、春に咲く野の花を観察したり、川に入って虫を捕ったり、楽しく活動しています。「自分たちが暮らす地域でも観察会がしたい」と考えている方がいらっしゃいましたら、是非ご参加ください。

●参加のお申込は、mail(at)hanayasuribooks.com(相地透)に、お名前と参加人数をお知らせください。

 

SCENE in the pen. 077

“Grasshopper singing loudly”

In September, I visited the fields where the crickets and grasshoppers live at night. When I got out of the car, I heard lots of the sound in the grass and rice fields along the railway. There were grasshoppers singing loudly over the sound of the running railway. They are only found here on the Pen. When I shone the light on him, he stopped singing and remained still for a while before leaping away into the grass on strong legs. [September 2024]

Mecopoda elongata

タイワンクツワムシは、海に近い暖かい地域に局地的に住んでおり、かつては愛知が生息地の北限とされていました。ジャッ、ジャッ、ジャッと短く切れる音で鳴き始め、ジャカジャカジャカ……と大きな音でにぎやかに鳴きます。

 

積ん読

数年前の冬、東京駅から名古屋に帰って来るときに、夜8時の新幹線まで時間があったので、付近にある商業施設、「キッテ丸の内」に立ち寄った。洒落た落ち着きのあるビルディングで、高い吹き抜けを中心に、各フロア、選りすぐられたお店が並ぶ。それらのテナントは個性的で、名古屋でも見かけるチェーン店も入っているのだが、雑貨屋さんなどは、地方のお店が入っている。日本郵政が運営母体だからだろうか、石見、鯖江、高岡、豊岡、京都など、全国津々浦々だ。都市の名前を、頭の中で日本地図に置きながら、日本は職人の国なのだな、とあらためて実感する。ちょっと買うには、高価なものが多いが、丁寧に作られた商品が並んでいるので、1フロアずつゆっくり見て歩いているだけで、楽しく時間が過ぎていく。屋上にあがると、東京駅を一望できる庭園が設えてあり、数年前、開業当初の姿に再現された東京駅丸の内駅舎を上から見ることができる。訪ねたときは、工事が終わり公開されてから、まだ間もなかった時期で、大学生くらいのグループが三脚を立ててライトアップされた駅舎を撮影していて、楽しそうだった。

その折に、施設内の書店で購入した一冊の絵本がある。タイトルは「翻訳できない世界のことば」(エラ・フランシス・サンダース、前田まゆみ・訳/創元社、2016)。世界中の言語から選んだ、他国の言葉への翻訳が難しい独特な単語を、イラストレーターである著者が絵とともに紹介している。北欧フィンランドでは「トナカイが休憩なしで疲れず移動できる距離」のことを、「ポロンクセマ」という言葉で表すそうだ。お国柄が反映されたユニークな言葉の数々の中、日本語から選ばれた一つが「積ん読(つんどく)」である。「買ってきた本を、ほかのまだ読んでいない本といっしょに、読まずに積んでおくこと」と解説されている。

8月も終わりに差し掛かり、大型の台風がノロノロとやってきて、外に出掛けづらかったので、ひさしぶりに本棚を整理することにした。本棚の整理は数年おきに、気が向くとしている。本はたまに動かして空気に触れさせた方が良いと、ずいぶん昔に、たしか古書店主の方のエッセイで読み、それ以来、定期的に本棚から出している。「本はなかなか手放せない」という話をよく聞くが、私は、ある程度本が溜まったところで、今後読まないだろうと判断した本は、古本屋に持って行く。ただ、やはり一定の期間、自分の本棚に並び続けた本を手放すのは、それなりに気力も使い大変なので、数年に一度、ということになる。

千葉から名古屋に持ち帰ってきた本は、段ボールに数箱と大量にあったのだが、この十数年のあいだに、コツコツと減らしてきた。当然、その間に買い足す本もあるので、減ってもまた、増える。本棚からはみ出るほどに本がある状態が続くと、自分の脳内もパンパンに詰まっている気分になる。なので、「この十数年、本棚に残し続けたのに、ここに来て手放すのは忍び難いけれども、やはり、この先の計画を考えると、脳内スペースはある程度確保しておいた方がよいだろう」と決心し、2日間かけて本を選別した。

すっきりした本棚を眺めると、自分が本当に読みたかった本が、はっきりしてきた。「あれも、これも」と散漫だった意識が、「これだけで、良い」になると、途端、読む意欲が湧いてくる。数年間、しなくてはいけない事、考える事が多く、本を開いても、なかなか読み進められない時期が続いていたので、ようやく読む意欲が湧いてきたのは嬉しい。

積んどいてあった本のタイトルはというと、大学の講義で購入し、積読期間は25年になる「ロシアの妖怪たち」(斎藤君子、スズキコージ・絵/大修館書店、1999)。100年前に採取された植物標本と物語、「ポール・ヴァーゼンの植物標本」(ポールヴァーゼン、堀江敏幸/リトルモア、2022)。北アメリカ先住民の著者が語る、植物と先住民族文化にまつわる話、「植物と叡智の守り人」(ロビン・ウォール・キマラー、三木直子・訳/築地書館、2018)。ブックオフでふと目に留まって購入した、スペイン児童文学「太陽と月の大地」(コンチャ・ロペス=ナルバエス、宇野和美・訳、松本里美・絵/福音館書店、2017)。少し前から興味を持っている日本庭園についての解説書、「日本の庭ことはじめ」(岡田憲久/TOTO出版、2008)など。文庫や実用書なども含めると、まだ何冊もある。

9月に入り、台風は熱田の周辺からは離れたようだ。まだしばらくは安定しない日が続くだろうが、徐々に秋は深まっていく。読書の秋、そして、収穫の秋。人々が乾いた地面を耕し、ふかふかと肥えた土に種を撒いて育てた実を収穫する時期は、もうすぐだ。

 

第三回出版文化を考える会・まとめ

8月26日、第三回目の出版文化を考える会を開催しました。

午前10時に地下鉄西高蔵駅から徒歩数分の高座結御子神社に集合。その後、熱田の代表的な史跡を巡りました。

午後は、名古屋国際会議場で、話し合いをしました。前半は、フィールドワークで回った場所をおさらいし、「あつたデータベース」の構想をお話しました。熱田の歴史については、すでに多くの方々の地道な取り組みによる優れた資料・書籍があります。宮宿は、東海道のなかでもっとも大きな宿でした。多くの文学者や学者が訪ねた歴史があり、人々の交流が盛んだった土地です。おそらく、これまでに熱田を訪問したことが伝えられている人だけでなく、他にもよく知られた人物が訪ねているはずです。熱田を訪ねたことが記された日記などの記述を収集し、データベース化し、外から見た「熱田」を知る事で、魅力をさらに発展させることができるのでは、という話に行きつきました。

その後は、完成した40人の文学者リストから、8人を取り上げ、その文学者が重要である理由をお話しました。また、今後の流れとして、来年2025年は、文学誌発行に向けての準備期間とし、2026年の創刊を目標とすることもお知らせしました。

資料はこちら→ 第三回出版文化を考える会・資料

次回は10月26日(土)の開催を予定しています。「文学者を知る」は、10人分をお話します。もう一題は、「和紙・地域・自然」をテーマとする企画案についてお話します。また、来年2月から2年間、名古屋国際会議場が休場となるため、現在の形での「出版文化を考える会」は年内で一旦終了します。残り二回となりましたが、興味のある方は是非ご予定ください。

 

「鳴く虫の観察会 in 阿久比」のお知らせ

鳴く虫の観察会のシーズンとなりました。今年も猛暑となった夏ですが、そろそろ虫たちが野や町にあらわれて、翅を震わせて鳴いています。6年目となる阿久比町での鳴く虫の観察会です。この観察地は、知多半島において、一か所で、もっともたくさんの種類の虫の音が聞こえる場所の一つです。その数はおよそ30種ほど。愛知県では50種ほどの鳴く虫が記録されていますので、その半分以上がこの場所に生息しています。今年は9月上旬と9月下旬、2回開催します。(下の写真はウスイロササキリ)

〇日程/2024年9月7日(土)、9月22日(日)

〇時間/18:30集合~20:00頃、終了予定 ※集合時間を変更しました。

〇集合場所/阿久比町役場駐車場 地図はこちら

※電車でお越しの場合は、最寄りが「阿久比」駅になります。駅から町役場までは、徒歩7分ほどです。

〇費用/無料

〇その他/食事は済ませてからお越しください。トイレは役場に隣接する公民館にあります。メモを取る場合は、筆記用具をお持ちください。外灯のある舗装された道を歩きますので、懐中電灯等は必要ありませんが、鳴いているところを観察したい方はLEDライトがあると便利です。

 

終了しました。ご参加いただきありがとうございました。