十月の日誌(下)

10月18日。中生涯学習センターでモンテッソーリ読書会。昨年末の準備会、6月、8月、今回で4回目。さまざまな縁があって始めた読書会であるが、資料をつくり、テキストを読み解き、話し合い、教えてもらい、感想を聞きながら、いろんなことを考える。

個人的に少し前から考え始めているのは、幼稚園・保育園の時期があって、子どもたちが就学するときの選択肢のこと。6年間、これまでのように公立の小学校に通う選択肢に加えて、公立のモンテッソーリ・スクールに通う選択肢ができると良いのではと思っている。少し前から、原因らしいものが無くても学校に行くことができない、という不登校の子どもが増えていると聞くようになった。かつては、担任の先生と合わない、嫌な子がいる、家庭に問題があるなど、ある程度明確な原因があったと思うが、今は、理由は分からないけれども行けない。それならば、原因はさておき、行ける環境で学んだ方が良いのではないだろうかと思うのだ。小学校を卒業し中学校に上がると、大人たちと同様に社会に生きるための準備期間に入っていく。その時期には、社会性や協調性も求められるだろう。けれども、小学校時代は、そうしたことを置いておいても、その時期に育むべき大切な事柄があるはず。すでに就学中であっても、通う先を選ぶことができる。それぞれの学校の先生も、地域の人たちも、そうした仕組みを理解している。そんな環境が整備されると良いのではないだろうか。

10月21日。南信教育事務所が主催する講座、赤門スクールに参加するため飯田市に行く。内容は「博物館の父・田中芳男を知っていますか?」。始まる前に、飯田市美術博物館で今回のテーマの企画展示を見る。田中芳男は、飯田出身の官僚であり、東京・上野の博物館群の設立に大きく関わった人物。若い頃に医者を目指すが、その過程で薬草となる植物に興味を持ち始め、尾張の伊藤圭介に師事する。本草学に傾倒した時期を経て、その後は官僚として、さまざまな物産に関わる仕事に従事する。ウィーン、フィラデルフィアの万国博覧会の出品にも大きく貢献した。古今東西の博物に造詣が深く、自分が収集した物品で展覧会を開いた。学芸員の方のお話を聞き、展示の内容がより深く理解できた。美術博物館に寄贈された膨大な資料の精査はまだ始まったばかりとのこと。興味深い人物なので楽しみだ。

10月25日。熱田神宮宝物殿の会議室で、自然を楽しむ会の例会に参加する。自然を楽しむ会は、年に3回の例会と、春と秋に観察会を行っている。9月末の観察会では、土岐市の森を歩いて、スイランなど稀少な湿地の植物をはじめ、シンジュガヤ、イヌノヒゲなど見落としがちな植物、浮葉植物のジュンサイ、ラン科のオオミヤマウズラ、ケネザサ・ネザサと金剛竹の違い、地衣類のハナゴケなどを観察。水辺ではマユタテアカネやハグロトンボが飛んでいて、林縁の樹上ではクサヒバリも鳴いていて、楽しい観察会だった。

この日は、最初に、おもに海外の蝶についてのお話。日本では見かけない蝶の標本を見ながら、4日の観察会で訪問した「Mihama Butterfly Museum」のことを思い出す。地域ごとに特徴が異なる蝶たち。それぞれ美しい。次に、名古屋近郊にある自然観察スポットのお話。訪ねられている場所がとても多く、それぞれに特色のある場所ばかりである。メモを取りながら、この地方の自然のつながりを知るためには、訪ねるべき場所は多いなと思う。まずはこれまでのフィールドワークに近い場所から、できる範囲で訪ねてみたい。

10月30日。個人詩誌「一声」の完成品を、三口さんに届ける。コツコツ詩を書き続け、年に3回、一枚詩を出されている。日々の生活で浮かび上がるイマジネーションがあり、自分自身の経験から生まれる言葉を選び、選んだ言葉と向きあい、納得のいく詩にする。写真をどのように提示するかということにも似ている。何度でも出会い撮影している場所、生きもの、風景、事物。フィールドワーカーらしい写真の提示を考えないとな、と思う。納品した帰り、ひさしぶりにガルリラペに寄る。オーナーと半田出身の若い日本画家の方と話す。

10月31日。西味鋺観察会。今年は天気に恵まれず、6月、8月の観察会は中止となった。この日は、西八龍社で木の実の種類について知り、味鋺神社まで歩いた。参加された方は多くはなかったけれども、ひさしぶりに開催できて良かった。30回以上続けてきた西味鋺観察会。継続は力なり。今後どのように続いていくか楽しみにして。

 

 

十月の日誌(中)

10月9日。紙の温度の講座に参加する。宍倉先生のお話を聞くのは3回目。一昨年は、先生の専門分野である植物繊維について。植物繊維といっても植物によって特徴がずいぶん違う。繊維の長さや硬さから紙漉きに用いられている植物の特徴を知る。繊維を攪拌して解すビーター(叩解機)の仕組みやビーターを動かすタービンのことなど専門的な内容が難しくも楽しかった。昨年は、和紙の原料となる植物の話。和紙に用いられる一般的な植物コウゾ、ミツマタ、ガンピ。練りにはトロロアオイが使われるが、整髪料に用いられたサネカズラが試された時代もあったそうだ。古代から繊維をとるために栽培された苧麻は、熱田神宮の周辺にもあるんじゃないかなと仰っていた。苧麻とは、種名でいうとカラムシのこと。カラムシは、知多半島でもよく茂っているのを見かけるイラクサ科の植物。

今回は、美術に使われた和紙についてのお話。まずは書に使われる紙の変遷について。聖徳太子は仏教の普及にあたり写経を勧める。奈良時代の打紙から始まり、平安時代に流し漉きが登場する。僧侶や貴族が用いた紙は、苧麻と雁皮を混合した白くて厚い紙。その後、鎌倉武士たちが勉学に励むようになり、ミツマタを使用した柿色の修善寺紙が用いられるようになる。室町時代には全国へと広まった。江戸時代になると、寺子屋での勉強にミツマタの紙である駿河半紙が普及する。書だけでなく、日本画、版画に使われた紙の話もそれぞれに内容の濃いお話で、とても勉強になった。店舗併設のギャラリーでは、花や実、キノコ、生きものなどをモチーフにした、美しい和紙の色が目を引く、切り絵作品が展示されていた。

10月11日。モンテッソーリ読書会について打ち合わせをするため、子どもの家を訪ねる。先日の明智でのことを話しながら、ヒトツバタゴの自生地や、他にも明智の自然のことについて教えてもらう。7月にあらわれるホタルの話になる。田んぼや草むらだけでなく、木の上でもたくさん光っているのだが、ヘイケボタルなのかは分からないそうだ。新美南吉の童話「木の祭り」を思い出す。来年の夏、訪ねてみたい。

10月12日。揖斐川町に行く。いろいろ考えることの多いフィールドワークだった。

10月13日。モンテッソーリ読書会で話し合う校庭の話を聞くため、緑区に行く。知多半島で行われていた、学校の先生方の勉強会である「授業の会」に参加されていて、観察会や写真展にも来てくださった方に、勤務先の小学校の側溝にいるモクズガニのことを教えてもらう。この勤務先の小学校は、父が最初に勤めた小学校でもある。当時からカニは多かったそうで、近くには「蟹田」という地名もある。「実際に見てもらった方が早いと思います」と提案してくださったので、そのまま小学校に行くことにした。

運動会の代休日で静かな小学校。広い運動場と校舎の並ぶ境に側溝があった。底が見える側溝蓋をのぞき込むと、すぐに一匹見つけた。側溝沿いを歩くと、もう一匹。「見つからないこともあるんですけど、今日はいますね」とのこと。以前は、渡り廊下をカニがよく歩いていたそうだ。この小学校のすぐ傍には川が流れている。海に近いため、潮の干満の影響を受ける。側溝の経路をたどっていくと、水路を通って川に行くのだろう。父曰く、「普通はアメリカザリガニを飼育するけれど、校庭でモクズガニが捕まえられるなら、その方がおもしろい」とのこと。身の回りの自然環境を知ると、そのまま子どもの学びに活きてくる。

校庭と中庭を歩かせてもらい、父が30年前につくった観察池、道路の拡張工事で持ち込まれた古い石の道標、学校創立時から使われている倉庫などを見る。イチョウの木の下には銀杏がたくさん落ちていた。ここの銀杏は美味しいそうだ。校庭や中庭には野草も多く、イヌタデやハゼランが咲いていた。校門を出ると、フェンスにからまったノブドウの実が色づいていた。水路にはカワセミが来たこともあったそうだ。フェンス沿いを歩くと、タンキリマメの実。赤いさやが開いて、さやの両端に種が付いている。一緒に来ていた先生のお子さんが、「これ、何」と持ってきたのは、クスノキの実。緑色のまま落ちたものもあれば、黒く色づいて落ちたものもある。4歳の男の子は、木に実が付いているところをじっと見上げて、いくつも実を拾っていた。日が暮れてきたので、お礼を言い、帰宅した。

10月17日。昭和文化小劇場にダンス公演を観に行く。ダンサー倉知可英さんの三十周年記念公演「螺旋の旅」。生命の誕生。混沌、秩序、歓喜、孤独。先達への感謝。過去と未来の架け橋は、人の想いと縁。人の縁(出会い)は、どのように生まれるのだろう。<下へ続く>

 

 

十月の日誌(上)

9月は、ひと月を通じて、ほぼ毎日雨が降った。その間、24時間雨量が25年前の東海豪雨を越えた日もあった。10月に入ると一転良い天気が続いた。下旬には、大鹿村と伊那市の境で撮影された400頭以上のシカの大群と、シカによる高山植物の食害の記事が新聞に載った。考えることの多かった10月のことを備忘録として記しておこうと思う。

10月2日。名古屋市名東区に行く。コンサートプログラムの制作を依頼してくださった方に完成品をお届けし、その後、猪高緑地へ行った。猪高緑地には何度か来ているが、ゆっくり歩くのは久しぶり。雑木林にはフユノハナワラビが出ていた。道に沿ってヤブマメ、萩の花が咲き、終りかけのヒガンバナでイチモンジセセリが吸蜜していた。ハンノキ湿地では、クサヒバリの音が聞こえる。30分ほど歩いて市が管理する田んぼに到着。子どもの家の稲は、よく稔っていた。豪雨でどうなるかと心配されたが、事前に水が抜かれ、稲が水に浸からなかったそうだ。棚田状になった田んぼは一枚ずつ借主が違うため、田んぼごとに雰囲気が異なり、おもしろい。草取りを気にしていないのか、オモダカの花がいくつも咲いている田んぼもあった。こちらに気づいたアオサギが飛ぶ。少し離れたところに下りて、真っすぐ首を伸ばして立つ。田のそばでは、ミゾソバ、ヒヨドリバナ、ツリガネニンジンが咲いていて、赤とんぼが飛んでいた。スズメウリの実を見つけたが、まだ白くなかった。

10月3日。子どもの家の行事に参加させていただき、今年も明智リンゴパークに行く。昨年は小雨の中で収穫したが、この日はすっきりと晴天。到着すると、ここでもクサヒバリが鳴いていた。赤くなったリンゴを一つもいで、まるかじりする。今年も美味しい。リンゴをまるかじりする子どもたちや父兄の方たちのそばを離れて、農園内を歩いていると、タテハチョウが飛んでいた。タテハチョウの仲間は、縄張り意識が強い。このチョウも、こちらを少し威嚇するように周囲を飛び、リンゴの葉に止まる。止まると、顔をこちらに向ける。近づくとすぐに飛び上がり、別のリンゴの木に止まる。止まっているところを見ると、知多半島でもよく見かけるキタテハだった。

収穫が終わり、団子杉がある場所へ移動。周りは植林の森で、谷あいに田んぼと湿地がある。見上げるとトビが悠々と飛んでいた。お弁当を食べ終わると、大人も子どもも、それぞれ自然の観察が始まる。今年生まれた小さなトノサマガエルを捕まえる。小川に入りサワガニをすくう。小屋のそばにアリジゴクの巣を見つけ、中にいるか掘ってみると、いた。そばには大きなサンシュユの木があり、赤い実をとるために登る。自然の中、子どもたちが走り回る風景を眺めながら、生きものを探す。アキアカネがロープに等間隔でとまっていた。アキアカネも数が激減しているトンボ。ほかにはイナゴやホシササキリ、クサキリ、ショウリョウバッタなどがいた。独特な姿形をしたシャチホコガの幼虫も見つける。

明智からの帰り道、恵那市三郷町の寿老の滝と椋実八幡神社を訪ねる。寿老の滝のそばには、屛風山を散策する自然歩道の入口があった。川のそばに下りると、ゲンノショウコがきれいに咲いていた。人が来て驚いたのか、マムシが木から落ちて、川を対岸まで泳いでいった。椋実は田んぼが広がる静かな集落。八幡神社の前を流れる小川がきれいだった。

10月4日。秋の観察会。武豊町にある自然公園を訪ねる。田んぼは収穫前で稲穂が垂れていた。春に来たときには、やめられたのかなと思っていた。今年も続けられていたことが分かり少し安心するが、持ち主の方も大変だろうと思う。田んぼ環境を維持するため、田作業をされる方たちが無理なく続けられるために、どんなことが考えられるか。

10月8日。南知多町でタカの渡りを見るため、朝5時10分に家を出る。夜空を見ると、オリオン座。まだ通勤の車も走っていない、静かな国道1号線を走る。都市高速に入り、知多半島道路を走っていると徐々に空が明るくなり、三河山地の稜線がくっきりと見えた。朝焼けで空が赤い。目的地である桜公園に着く頃には、だいぶ空が明るくなった。伊良湖岬のある渥美半島を眺めながら、8時まで観察したが、渡りは見られず。漁港上空で餌を狙っているトビだけ。周辺では、もう10月なのにキリギリスがあちこちで鳴いていて、ウスバキトンボの集団がエサを獲っていた。タカ類以外では、コジュケイ、キジバト、ヒヨドリ、スズメ、モズの声が聞こえた。帰りに海沿いへと坂を下る途中、3羽のキセキレイがいた。一週間前には、サシバ、ハチクマ、ツミが見られたそうだ。残念。来年、また来よう。<中へ続く>

 

 

11月・12月のスケジュール

早いもので、今年も残すところ2か月と少しとなりました。11月、12月の観察会、読書会のスケジュールです。

 

<11月のスケジュール>

「椋鳩十を読む会」

日時:11/21(土) 11:00~12:00/13:30~16:30

場所:CORE SELDOM(芸音)/昭和生涯学習センター・第1集会室

◇午前の部は、スタジオで歌の練習をします。午後の部の課題図書は、「マヤの一生」を読みます。「椋鳩十名作選 マヤの一生」(理論社)、「椋鳩十全集(15)マヤの一生」(ポプラ社)などで読むことが出来ます。「椋鳩十と戦争」は、「第9章」「第10章」を読みます。初めての方もお気軽にご参加ください。

※内容の詳細は、11月上旬に掲載します。

 

「天白渓観察会」

日時:11/23(月・祝) 10:00~12:00

場所:名古屋市天白区・八事裏山

◇4回目となる天白渓観察会です。名古屋市の丘陵地にある雑木林を歩いて、色づきはじめた木の実など、晩秋の様子を観察します。

※内容の詳細は、11月上旬に掲載します。

 

「モンテッソーリ読書会」

日時:11/27(金) 18:00~21:00

場所:名古屋市天白区・モンテッソーリ瑞穂子どもの家

◇今回は、読解・話し合いからは離れて、感覚教具などモンテッソーリ教具に実際に触れて、仕組みや扱い方を知ります。平日夜の開催です。開始は18時ですが、到着した順に始めますので、遅れてのご参加でも大丈夫です。会の最後に、来年のスケジュールについて話し合います。

※内容の詳細は、11月上旬に掲載します。

 

<12月のスケジュール>

「冬の観察会 in 大井」

日時:12/6(日) 13:30~15:30

場所:南知多町大井

◇冬の観察会は、4年ぶりに大井を歩きます。大井は、南知多町三河湾側にある漁港の町。初夏にクサフグが産卵に訪れる砂地があり、干潮時には広い岩礁があらわれる場所もあります。また、この地域にはトビが営巣しており、鳶が崎という地名があります。大井の山や海を散策します。

※内容の詳細は、11月下旬に掲載します。

 

「第35回 西味鋺観察会」

日時:12/19(土) 10:00~12:00

場所:西味鋺コミュニティセンター

◇西味鋺周辺にやってくる、カモなどの冬の鳥を観察します。

※参加を希望される方は、mail(at)hanayasuribooks.comまでご連絡ください。

 

揖斐谷、春日谷で考える(下)

春日の森の文化博物館の駐車場に着き、車の外に出ると、少し変わった模様の四花弁の白い花が咲いていた。平地では見かけない。なんだろうと思いながら、写真に撮る。駐車場から文化博物館までは少し距離があるが、ところどころで、その花が咲いていた。

真っすぐ奥へと続く、森の文化博物館のアプローチ。ああ、こういう造りだったなと、7年前に来たときのことを思い出す。苔の生える地面には、アプローチに沿って彫刻が置いてある。それらの作品は、春日村出身の彫刻家・藤原市三郎が造ったもの。市三郎は、1919(大正11)年に炭焼き、養蚕、薬草を生業とする両親のもとに生まれ、学校を卒業した後は、岐阜県庁に勤めた。戦争が始まると、野戦郵便隊員としてビルマへ派兵される。当地でイギリス軍の捕虜になるが、ビルマの人々の暮らしや花や動物をハガキに描いて、家族に送った。終戦後は復職するものの、すぐに退職。春日村のお茶・薬草の販売店、看板屋で生計を立てながら芸術の道を歩む。植物の雄しべや雌しべ、蝶や尺取虫の蛹を観察し、その生態からインスピレーションを得て作品づくりをしたという人物である。

椋鳩十作品にも登場する遠山犬や、薩摩犬のように、この地方にも古くから山に生きる日本犬がいた。美濃柴犬といい、やはり猟師たちとともに、ウサギやキジを狩る猟犬として飼育されていたが、戦中の混乱期に食糧難や伝染病の影響で数が激減する。市三郎は、絶滅の危機から美濃柴犬を守るため、自宅で何頭も育てていたそうだ。

柴犬とは少し違う感じの犬の彫刻が玄関のそばにあったので、近くで見ようとアプローチを下りると、苔の地面に、ハナヤスリが生えていた。これはコヒロハハナヤスリだろう。コヒロハハナヤスリと、雑種とされるコハナヤスリとの違いを、もう少し正確に理解しておかないといけないなと思いながらも、またハナヤスリに出会えて嬉しくなる。

館内の展示は、大きく変わっていなかった。ブナの森、村の民話、炭焼き小屋、薬草、そして、お祭り。広い展示室ではないが、村の生活や大切にしてきたものがよく分かる展示である。前回来たときには見落としていたが、鉄を精錬するときに出る不純物の多い塊・鉄滓(てっさい)が見つかっていることから、鋼精錬の技術集団が春日に暮らしていたのではと考えられているそうだ。製鉄には、大量の木炭が必要なので、春日村では炭焼きが発展した。かつては炭焼きの村と称されるほど、炭生産の多い土地だった。

揖斐谷と春日谷のことが分かってくると、自然の材を人の知恵によって活用し、暮らしを豊かにしていた地域なのだなと感心する。土地に生える木で生活用具や道具をつくる。コウゾやミツマタを使い、紙を漉く。養蚕で糸をつくり、機で織って衣服などをつくる。さまざまな野草を薬にする。棚田もあるので、米もつくっていたし、古くは稗や粟もつくっただろう。加えて、狩猟、漁労、採集。鉄は村の暮らしに直結したわけではないかもしれないが、山を知る人々が暮らす土地だったから出来たのだろう。これだけ自然と人の生活をつなげ、活かし、地域での生産がなされている土地は珍しい気がする。

展示を見終わって博物館の職員の方と少しお話したところ、シカが山野草を芽生えから食べてしまうそうだ。「長野でも問題になっています。希少な高山植物が食べられてしまうそうで」と話す。現代の山の問題は、地域を問わない共通性がある。

博物館を出て、アプローチを歩く。そばを粕川の支流が流れているので、水の音がよく聞こえる。歩いていると、いきなり虫が飛び付いてきて、服に止まった。びっくりして見ると、カワゲラである。体が黄色いので、ヤマトカワゲラかなと思ったが、少し様子が違う。帰ってから調べてみると、渓流に生息するフタツメカワゲラの仲間だった。

駐車場に戻り、もう少し植物を観察する。仕事が終わった職員の方がやってきて、何を見ているんですかと話しかけられた。四花弁の白い花のことを聞いてみると、アケボノソウですねと教えてくださった。これだけはシカが食べないから、あちこち生えているそうだ。

最後に、前回来たときに見た太鼓踊りが奉納される六社神社を訪ねた。16時半をまわり、だいぶ暗くなってきて、仰ぐほどの杉の木のもと、幽遠な雰囲気が漂う。石段を上がり、薄暗がりに地面を見ると、またハナヤスリが生えていた。コヒロハハナヤスリでよさそうである。それにしても今日一日で、ハナヤスリの生育地リストが急に増えたなと不思議な気持ちになる。ハナヤスリの調査も兼ねて、またそのうちに訪ねよてみようと思った。

 

揖斐谷、春日谷で考える(中)

三輪神社から揖斐川沿いの国道417号線を山の方へと向かう。しばらく走ると、道の駅「星のふるさとふじはし」に到着。そのまま道を進めば奥いび湖があり、徳山ダムがある。県境である冠山トンネルを越えると、福井県池田町に入る。その先は越前市がある。山を抜けて和紙のふる里を過ぎると武生盆地。かつては徒歩で山道を歩いていくしかなかったことは容易に想像できる。現在は、車で一時間ほど走れば越前まで行ける。

道の駅に着いたのはお昼時で、日帰り温泉に来た人たちや、行楽の家族、年配のご夫婦、バイクでツーリング中の人たちなど、にぎやかだった。目的地の徳山民俗資料収蔵庫は昼休憩中だった。入ることができるのは13時から。屋台でおにぎりを買ってきて、ロビーに置いてあった少し懐かしい感じのするアップライト・ピアノの前で食べながら待つことにした。

収蔵庫の入口には徳山村のかつての生活の様子や水が溜まっていく過程が、写真パネルで展示されていた。受付にいた職員の方が声を掛けてくださったので収蔵庫の中に入る。

ここに収蔵されているのは、国の重要民俗文化財である徳山の山村生産用具5890点。その一つ一つが木製の棚に丁寧に分類されて並べられている。狩猟の用具、漁労の用具、生活のための用具。農具や鋸。紙漉きの道具も漉き舟や干し板があった。他には、養蚕が盛んだったので、養蚕用具や紡織用具も収蔵されていた。そうした用具の一つずつには使用された木の名前が記してある。思い出してみると、地元で使われていた用具をひと揃え置いてある展示はよく見かける。それはそれで当時の生活が伝わり、素朴でよいのだけれども、この収蔵庫の量と保存状態のきれいさは圧巻である。ずっと見ていたくなる。

用具に使われている樹種は多様である。代表的なのは、トチノキ。他の木では、クリ、スギ、ヒノキ、ブナ、ケヤキ、ミズナラ、ミズメ、ホオノキ、カツラ、サワグルミ、シナノキ、クロモジ、マンサク、サクラ、イタヤカエデなど。曲げ物の代りとなるケヤキの樹皮は、一年のうちでもごくわずかな時期にしか取ることができない。木に水が一番よく上がってくる6月頃。根から枝葉へと運ばれる水が、樹皮との間に層をつくり、うく。そうすると樹皮が幹から離れやすくなり、きれいに樹皮をはぎ取ることができる。木材だけでなく、藁も用途によって数種類あるわらじや雪靴など、さまざまな用具に使われた。

広い収蔵庫内をひと通り歩いたが、紙漉きの様子を具体的に伝える展示は見あたらなかった。帰ってから調べてみると、滋賀との県境にある坂内(さかうち)村に坂内民俗資料館があり、ここは和紙の生産が盛んだったので、紙漉きの部屋が保存されているそうだ。けれども、現在も資料館があるのかどうかは、よく分からなかった。

坂内での紙の生産は、美濃和紙よりも早くから行われていて、こちらから美濃へと和紙の製造方法は伝播していったと言われている。地図を確認してみる。越前から伝わってきたとしたら、徳山経由で南下したということだろう。坂内よりも西から入ってきたとしたら、滋賀方面の紙漉きの里から伝わったということになる。徳山では、坂内の北にあるホハレ峠を越えて、昭和の頃まで近江の托鉢僧がやって来ていたという話なので、交流はかなりあっただろうが、近江方面で現在も伝わる和紙の里を知らない。となると、そもそも紙漉きの発祥が坂内ということなのだろうか。雪深い土地の苛酷な環境下で漉かれた美しい紙が、その製造技術とともに越前や美濃へと伝わったということなのかもしれない。

徳山村のルーツは旧石器時代に遡る。1万年前のナイフ形石器が見つかっており、黒曜石製のものも出土している。縄文遺跡は多数見つかっている。土器の系統は、北陸系、瀬戸内系、東海系、信濃系が混在。さまざまな土地から人が集まってきたことが分かる。同じように旧石器から縄文にかけて人が暮らしていた伊那谷では、天竜川沿いに弥生、古墳時代の遺跡が見つかっているが、徳山では、弥生前期の遺跡が見つかってはいるが、古墳時代の遺跡は無く、人が暮らしていたという明確な証拠はそこで一旦、途絶える。

江戸時代以前は、木を伐り倒すということは、決してしなかったそうだ。木の一部を生活の材とした。そうした話から思い浮かぶのは、山の民という言葉。弥生以降の明らかな人の営みが残っていなくても、人々はそこに暮らし続けていたのではないだろうか。かつての山の暮らしに想いを馳せ、外に出る。早くも傾き始めた陽射しのもと、行楽日和の道の駅を後にして、春日村へと向かった。<下に続く>

 

 

揖斐谷、春日谷で考える(上)

揖斐(いび)川。学校で習う東海地方の川というと木曽三川が代表的であるが、三川のうち一番西側を流れる川が揖斐川である。「揖」は「ゆう」とも読む。漢字の意味は、会釈する(胸の前で手を組んでするお辞儀のこと)、あつめる。「斐(ひ)」は、うるわしい、うつくしい、あやがあるといった意味をもつ。三川の河口は伊勢湾。愛知と三重の県境を海へと流れ出る。川の水が流れ出すところはどこか考えてみると、岐阜・長野に広がる山々に行きつく。

三川のうち、もっとも東側を流れる木曽川を遡ってみる。愛知と岐阜の県境、恵那・中津川、中央アルプスの伊那谷とは反対側にあたる御嶽山のふもとを北上し、諏訪湖の西にある鉢盛山が水源になる。諏訪湖は、伊那谷を流れる天竜川の水源。伊那谷、美濃、三河山地の接点・恵那山の西には名古屋市内を流れる庄内川の水源がある。三川の中央を流れる長良川は、岐阜市内、美濃市を通り、郡上・白鳥の北、大日ヶ岳が水源。揖斐川は、濃尾平野の西の果ての養老山地のふもとを通って大垣へと上り、揖斐川町から山へと入る。徳山ダムのさらに先、福井との県境に聳える冠山が水源地となる。

10月12日、揖斐川町に行くことにした。春に、熱田の「紙の温度」で、長年、竹紙(ちくし)を作られていた先生の講座があった。竹の活用については以前から関心があった。竹を漉くのは難しいと思われがちだが、「難しく考えず、まずはやってみてください」と気さくにお話され、紙漉きの工程や竹の特徴など、とても勉強になった。その中で、揖斐川町に昔の紙漉きの道具が保存されているというお話があった。興味を引かれて、すぐに行ってみようと思ったのだが、なかなか身動きが取れないまま、夏が終わってしまった。秋になり、せっかく思い立ったのだから年内には行っておこうと、数日前に決めて、バタバタと熱田を出発した。

揖斐川町に行くのは、2回目。前回は、7年前になる。当時「HANAYASURI」を作り始めて間もない頃で、毎回特集テーマを決めていた。そのときのテーマは「薬になる植物と人の営み」だった。春日村は伊吹山地にある。伊吹山には280種に及ぶ薬用効果のある植物があり、伊吹百薬として知られた。谷あいの集落である春日村は全国でも有数の薬草の産地で、江戸時代の本草学者・飯沼慾斎(いいぬまよくさい)がフィールドワークを行い、植物採取した土地。1856年から62年にかけて飯沼慾斎が著した全20巻の大著「草木図説」は、後進の植物研究者に大きな影響を与えた。明治に入ると増訂版が出版され、その第三版は、牧野富太郎が手掛けている。せっかくなので、春日村も再び訪ねることにした。

最初に揖斐川町の平地にある三輪神社を訪ねた。揖斐川総鎮守の古い社で、この土地で水田を開発し農耕に従事した三輪族という人々に縁のある神社。晴れて快い日で、車を降りると、参拝している人たちが数組いた。手水舎には、白、オレンジ、黄色の花々が浮かべてあった。拝殿でお詣りし、参詣順路に沿って歩く。祭礼の日には、子ども歌舞伎があるそうで、境内に歌舞伎舞台があった。そばには、さざれ石がある。さざれ石は「君が代」にも詠われる石だが、揖斐川町が原産。知多半島でも、こちらから持って来られた石を見かける。前回訪ねた時には、さざれ石のある公園も訪ねた。山地の奥まった場所だったが、舗装された道を行くので、秘境を訪ねるような感じではない。日が傾き始めた時間帯だったので、斜陽に川の水面がきらきら光り、水の音と鳥の声が響いていたのを覚えている。

三輪神社は、うさぎに縁のある神社である。うさぎというと因幡の白兎。因幡の白兎というと大黒様。うさぎをなでて、大黒様にさわり、石の階段を上がる。上がってみると、地面がきれいに苔むしていた。足もとを見ると、フユノハナワラビが生えていた。いくつも生えているので、自然と足もとに目がいく。ふと燈籠の下にハナヤスリの群落を見つけた。よく見ると葉が細いので、ハマハナヤスリだろう。なかなか出会えないと思っていたハナヤスリの仲間と出会えた。境内には他にもいくつかハナヤスリの群落があった。ハマハナヤスリは最初のものだけで、他は、名古屋でもよく見かけるコヒロハハナヤスリかコハナヤスリ。しばらく観察して地面から顔を上げると、アサギマダラがひらひら飛んできた。移動の最中だろうか。木々の合間を小型のヤンマが飛んでいる。クサヒバリの音が樹上に聞こえた。

神社のそばにある池を観察して駐車場に戻ってくると、毛並みのきれいなネコが欠伸していた。青い目のハチワレ。裏山に続く道を歩いても楽しそうである。また来たい場所だなと思いながら、山あいの道の駅に隣接する徳山民俗資料収集庫へ向けて出発した。<中に続く>

 

 

SCENE in the pen. 108

“White morning glory”

Leaving the woodlands, We walked along the path the edge of the woods, looking at the plants. The kudzu’s flowers had fallen and it was bearing fruit. The Harlequin glorybower had white flowers and star-shaped berries growing together. On the ground, white morning glories were in bloom. [OCTOBER 2026]

Ipomoea lacunosa

 

秋に咲いている小さな朝顔には、いくつか種類があります。よく見かけるものでは、白い朝顔はホシアサガオ。紫がかった紅色の朝顔はマメアサガオです。

 

<Traduction en français>

SCÈNE dans la pen. 108  “Une ipomèe blanche”

Après avoir quitté la forêt, nous avons longè sa lisière en observant la végétation. Les fleurs de kudzu etaient tombées et avaient monté en graine. Sur l’arbre du clergé on pouvait voir à la fois des fleurs blanches et des graines en formes d’etoile. Au sol, des ipomées blanches étaient en fleur. [OCTOBRE 2026]

 

SCENE in the pen. 107

“A beetle that eats snails”

After the field work was over, We went to the terraced fields by the sea. There were tea and chestnut trees, and crickets were hopping about on the ground. A large beetle that appeared on the road. It eats snails. It walks at a brisk pace and wouldn’t stop. It finally stopped walking, so when I pointed my camera at it, it looked in my direction for a moment, but soon set off again, looking rather busy. [OCTOBER 2026]

Damaster blaptoides

 

マイマイカブリは、オサムシ科の大型甲虫。日本固有種です。忙しなく地面を歩いて、頭を穴に突っこんでいるところをよく見かけます。危険を感じると、腹部から刺激のある液体を噴出するので、注意が必要です。

 

<Traduction en français>

SCÈNE dans la pen. 107  “Un carabe qui manges des escargots”

Après notre travail sur le terrain, nous sommes allés voir les terrasses en bord de mer. Il y avait des châtaigniers et des théiers,  et des grillons sautaient sur le sol. Un gros carabe est apparu sur la route. Il mange des escargots. Il marche d’un pas vif et ne s’arrête pas facilement. Comme il s’était enfin arrêté, j’ai braqué mon objectif sur lui; il m’a regardé pendent un moment, puis s’est aussitôt remis à marcher d’un pas pressé.  [OCTOBRE 2026]

 

モンテッソーリ読書会(10月)のお知らせ

10月のモンテッソーリ読書会のお知らせです。

今回は、「第2章 モンテッソーリの教具」を、十分に時間をかけて読み解きます。「環境について考える」のテーマは、「校庭・園庭」です。子どもたちは、一日の多くの時間を校舎や園舎で過ごします。その隣接する環境である「校庭・園庭」。それぞれの在り方について、考えてみます。

当日資料は、10/13(火)以降にPDFをお送りします。当日は参加できないけれども、話し合いの中で取り上げてほしいこと、疑問などがある方は、お知らせください。どうぞ、よろしくお願い致します。

 

〇日程/2026年10月18日(日)13:00~16:30

〇場所/中生涯学習センター・第1集会室

〇アクセス/名古屋市営地下鉄「上前津」駅下車。6番出口を出て、大津通り沿いに東別院方面へ進み、「下前津」交差点を右折すると着きます。徒歩8分。有料駐車場有り(1回300円)。

地図はこちら → 中生涯学習センターの場所

〇内容/①読解「第2章 モンテッソーリの教具」(90分) ②話し合い「子どもの環境について考える」(90分)

〇備考/・まだテキストをお持ちでない方には、コピーを郵送します。送付先ご住所をメールでお知らせください。コピー代は、1500円(送料含む)です。・当日話し合った内容は、まとめ資料を後日お送りします。興味のある方は、是非ご連絡ください。