伊那谷をめぐる(七) 座禅草、花木、片栗(中)

ハナノキは、カエデ科の樹木である。3月になると湿地の周辺で、若葉の出る前に、赤い花を咲かせる。花のあとにできる種子はプロペラ状。くるくると風にのって分布を広げる。秋になると、イロハモミジなど、ほかの楓の仲間と同じように紅葉する。

ハナノキのルーツはとても古い。祖先種であるブラウンカエデの化石が、約1300万年前の地層から見つかっている。1300万年前というと、地質学的には新生代第三紀にあたる。現在、私たちが生きている時代は、新生代第四紀。恐竜がいたのは、新生代の一つ前の時代である中生代。第三紀は、恐竜が絶滅して長い年月が経ち、地球全体が暖かくなり、被子植物が大地を緑にし、ほ乳類が繫栄し始めた時代。北極周辺で繁栄していた祖先が、繰り返し訪れた氷河期を乗り越えて、形を変え、北米、ヨーロッパ、日本で生き残った。

ハナノキは日本固有種であり、恵那山周辺の長野、愛知、岐阜に自生地が集中している。愛知県では県の花になっているが、自生地は少ない。武豊町の自然公園にもハナノキはたくさん生えているのだが、ずいぶん昔に人が移し入れたものが増えたのだろう。

伊那谷の自生地は、飯田市、阿智村、阿南町に広がる。以前、飯田市美術博物館を訪ねたとき、ミュージアムショップに並んでいた「ハナノキ湿地の自然史 赤き楓のシンフォニー」(2008)という展覧会図録が目に留まった。ハナノキの紅葉と裏表紙には花の写真。地の色も赤い、真っ赤な装幀の図録。この図録の印象はとても強く、毎年ハナノキを見に行いたいなと思いつつも、春は訪ねる場所も多く、機会に恵まれなかった。そろそろ行ってみようと思い、この春に飯田市山本周辺のハナノキ湿地の一つを訪ねてみることにした。

2月、まずは場所を確認するため、ザゼンソウを観に行く前に立ち寄ることにした。目印の付けられた駐車場に車をとめて、周辺を歩いてみる。湿地にはどこから入るのだろうと思いながら、植林されたヒノキの道を歩いていく。道をしばらく進むと、目の前に山並みが開けた。伊那谷で観察していると、どこを歩いても、急に目の前が開けて、山並みが見える場所がある。河岸段丘による起伏に富んだ地形は、風景を絵にしている。

なだらかな崖をコケがおおっている。前日まで雨が降っていたこともあり、葉の開いたコケがきれい。ハイゴケ、シラガゴケの仲間は、見て分かる。地衣類のコアカミゴケもある。昨年の冬、足助で訪ねた、農村舞台のある諏訪神社の石垣も、ハイゴケ、シラガゴケ、コアカミゴケが目立っていたなと思い出す。少し歩くと、シダの仲間であるマンネンスギがあった。杉の葉によく似ている。そばには、ヒカゲノカズラの群落もあった。

入るところが分からなかったため、駐車場まで引き返す。戻って周辺をきょろきょろ見ていたら、100メートルほど先の道路沿いに入口があった。ずいぶん先まで歩いてしまったけれども、周辺散策だけでも十分満足したので、移動することにした。立ち去り際、ほんのり黄色いチョウが眠たそうに飛んでいたので、写真に撮り、帰ってから確認すると、スジボソヤマキチョウだった。伊那谷らしい昆虫と出会えたので、嬉しくなる。

3月24日。あらためてハナノキ湿地を訪ねた。気温も上がり、生きものも本格的に動き出していて、スジグロシロチョウ、コツバメが飛んでいた。ハナノキは、ほぼ満開。赤い花がよく見える。少し後に満開となる桜の趣とは、だいぶ違う。自然に流れる時間に身を任せられなければ、美しさに気づくのは難しそうである。季節によって、場所によって、時間の流れが異なるのなら、それぞれの季節に咲く花々に、心を重ねられるようにありたい。

ちょうど保全活動をされている方たちが来て作業をされていたので、車でお弁当を食べていたら、「見て行ってください」と声を掛けてくださった。道路から谷へ下る。背の高いハナノキを見上げながら、雄木と雌木のこと、ハナノキの分布のこと、湿地の植物のことなどを教えてもらった。定期的に観察会もされているそうなので、ちょうど良い機会があったら参加してみたいと思った。雑木林を歩くと、思った以上に広いことが分かり、ルリタテハ、テングチョウ、オナシカワゲラなど春の虫たちがいて、気持ちの良いところだった。

家に帰って、あらためて図録を読み直していたら、滋賀県東近江市には、聖徳太子お手植えといわれるハナノキの古木があると書いてあった。伊那谷をめぐっていると、聖徳太子の碑をよく見かける。もしかしたら、1400年前、伊那谷を訪ねた聖徳太子が、ハナノキの美しさに魅かれ、幼木を持ち帰って植えたのかもしれないなと想像した。〈下に続く〉

 

 

伊那谷をめぐる(六) 座禅草、花木、片栗(上)

お彼岸に墓参りに行くと、手を合わせて、舎利礼文を唱える。これまで何回も唱えているし、短いので、これだけは最初から最後まで正確に覚えている。そういえば舎利礼文というお経のことをよく知らないなと思い、少し調べてみると、曹洞宗の開祖である道元が、火葬の際に唱えていた経文で、曹洞宗では重要視されているそうだ。

以前、曹洞宗の僧侶の方に「HANAYASURI」をお渡ししたところ、「座禅を組んでいるような気持ちになりました」と、感想をいただいたことがあった。だからということでは無いのだけれども、一度、ザゼンソウを観に行きたいなと思っていた。

伊那谷は、ザゼンソウが自生する地域である。ミズバショウなどと同じサトイモ科の植物で、雪国に生育する。冬が終わる頃、芽を出すときに発熱し、周囲の雪を融かす。自生地は日本海側に多く、長野では北部の高原に多い。伊那谷は、自生地の南限とされる。

2月下旬。飯田市の天然記念物に指定されている「嵯峨坂のざぜん草自生地」を訪ねるため、伊那谷へと向かった。2月に伊那谷を訪ねるのは初めてで、中央道を走っていると、伊那山地の向こうに雪をかぶった南アルプスが、大きく、眺められた。

嵯峨坂のざぜん草自生地は、飯田市虎岩という地域にある。虎岩は、和紙の里がある下久堅の隣の地域。飯田山本から三遠南信自動車道に入り、久堅インターで下りる。県道83号を右折。そのまま進むと喬木村第二小学校があり、もう少し先に行くと九十九谷森林公園がある。遠山郷に行くならば、途中で折れて、山道を進む。何度も来ているので、だいぶこの辺りの道を覚えてきた。右折して少し行くと、縄文時代の竪穴住居が復元されている北田遺跡があり、すぐに「嵯峨坂ざぜん草自生地」の道標があった。道標の方に折れる。山沿いの道をしばらく進み、谷あいの棚田に沿って急坂を上がる。目的地に到着。

棚田沿いには砂利の敷かれた駐車場があり、イスとテーブルが置かれた休憩所もある。置いてあったパンフレットをもらい、自生地を目指す。自生地は、もう少し上ったところにあるようだ。林縁の坂道を歩くと、周辺の植物を楽しめるようにされていて、植物の名前が書かれた札が立ててあった。「山葵沢」という札があったが、ワサビも生えるのだろうか。

白い枯れ草がおおう湿地沿いを林の端まで上ると、ここから、ざぜん草自生地。林床の湿地に、木道と物流に使うプラスチックのパレットが敷かれている。パレットは歩きやすかったが、木道は年季が入っていた。ザゼンソウが出ていないか、注意深く、湿地に目を向ける。芽出しはあるが、仏炎苞は見つからない。どうやら来るのが早すぎたかなと諦めかけていたら、一つだけ瑞々しい仏炎苞が出ていた。周りに雪は無いが、湿った土と落ち葉の間から出たばかりのザゼンソウは、黄金色にも見える緑色だった。ほっとして、数枚写真を撮り、林を出る。湿地と棚田の先に山並みが見えた。ウグイスの声を聞きながら、しばらくの間、のんびりする。駐車場のハナノキの枝に、越冬明けのヒメアカホシテントウがいた。少し触ると、まだ重そうな足取りで、もぞもぞ下へと移動していった。

3月下旬。山本の湿地を訪ねたあと、虎岩のザゼンソウはどうなっただろうと思い、訪ねてみた。一カ月前とは違い、大きくなった赤茶色の仏炎苞が出ていた。頭を出しているものもあれば、ほとんど埋まっているものもある。座禅を組み始めたばかりの修行僧も、時間が経ち、禅師の風格。株数は、数十ほどだろうか。

めだか池ではメダカが泳ぎ、テーブルでは、ルリタテハが翅を広げていた。たまたま来ていた方に話しかけると、この自生地の管理をされている方々のお一人だった。立ち話をしていると、虎岩の文化財施設である旧瀧澤医院の管理人でもあるそうで、「よければ観て行きませんか」と言ってくださった。せっかくなので、お言葉に甘えて案内していただくことにする。旧瀧澤医院は、明治時代の医師である瀧澤清顕が建てた擬洋風建築の病院。瀧澤清顕は、当時から白内障の手術を多数手掛けるほど、医師としての腕はよく知られ、美濃、三河、遠江からも頼ってくる人がいた。それぞれの街道が通る伊那谷は、来るのにも適していただろう。現在は、全国からお医者さんが、興味をもって訪ねて来るそう。資料の調査が進めば、これからその人柄も含めて知られていくだろう。立派な石垣を組んでまで虎岩に病院を作った理由に、絶えず湧き出る泉の存在がある。下久堅に和紙の里ができたのも、水と地形が理由の一つにある。自然の恵みに着目した先人が多い地域なのだなと実感した。〈中に続く〉

 

 

「春の観察会」のお知らせ

美浜町での「春の観察会・黒山に登る」のお知らせです。昨秋に続き、町民の森での観察会です。この場所は、恋の水神社から1キロほど東にある雑木林で、小高い山(黒山、標高 68.5メートル)になっています。とても低い山ですが、晴れていれば、山頂から三河湾と伊勢湾を見ることが出来ます。恋の水神社を出発し、黒山山頂を目指しながら、周辺の春の様子を観察します。(写真は、11月撮影)

 

〇日程/2026年4月19日(日)

〇時間/13:30集合~15:30頃、終了予定 ※30分ほど延長することがあります。余裕をもってご参加ください。

〇集合場所/美浜町奥田・恋の水神社駐車場 地図はこちら

※自動車の場合は、「恋の水神社」駐車場にお越しください。知多半島道路「美浜IC」を出て5分ほどです。

※電車の場合は、最寄りが「知多奥田」駅になります。13:13着の列車でお越しいただけましたら迎えに行きますので、その旨お知らせください。駅からは車で5分ほどです。

〇費用/無料

〇その他/観察会の前に昼食をとられる方は、各自ご用意ください。トイレは、恋の水神社にあります。長い距離を歩きながらの観察となりますので、歩きやすい靴でお越しください。メモを取る場合は、筆記用具をご用意ください。

★予定の変更など/開催日の前に、予定の変更など、ご連絡をする事があります。その場合は、お申し込みいただいたメールアドレスにご連絡しますので、お手数ですが、当日の前に一度メールをご確認ください。よろしくお願い致します。

 

お申し込みはこちら

 

シエル・ブラン

歯医者からの帰り道。地下鉄の駅に向かって歩いていた。大通りの交差点では、お昼御飯を食べに行くのか、買いに行くのか、仕事着姿の人たちや近隣の大学生が信号待ちをしていた。見上げれば、高速道路の高架。近くには、改装中の国際会議場がある。この辺りは、気にしなければ、土も見つけられない都市部だが、街路樹の根元を見ると、銅板のツリーサークルの隙間にスミレが咲いていた。見るからに小さなスミレ。たぶん、ヒメスミレだろうと思い、近づいて確認する。葉の縁が軽く波打っている。距(きょ。花弁の中で前に垂れる唇弁の後方部分)を横から見ると、根元だけがややピンク色だが、白い。ヒメスミレで良さそうだ。ヒメスミレを最初に認識したのは、岩滑の八幡社の石垣だったなと思い出す。

毎年3月になると、「そろそろスミレが咲く時期だ」と、路傍に目がいく。今年も3月半ば頃から見かけるようになった。スミレは、とても種類が多い。それだけで分厚い図鑑ができるほどである。最初はどのスミレを見ても、同じように見える。スミレの花があることに気づけるようになると、今度は、どれも違う種のような気がしてくる。そうこうしながらも、毎年調べてきたからか、生活圏と観察場所で出会うスミレは、大体見分けられるようになってきた。覚えては忘れ、忘れては覚えてという繰り返しは、虫の音を覚えるのに似ている。

まず先に、有茎種(茎が地上に出ている)であるタチツボスミレの仲間だが、タチツボスミレ、ナガバノタチツボスミレ、ニオイタチツボスミレは見かけている。だが、タチツボスミレの仲間は種間交雑が多いようなので、とりあえずタチツボスミレの仲間としておく。

地上茎の無い、無茎種のスミレの仲間では、春先、最初に見つけるのは、マキノスミレ。花は赤紫色で、距がピンク色になる。葉の裏や葉柄は、赤みがかっている。まだ昆虫が動き出す前から咲き出すものもある。東海地方は、マキノスミレとシハイスミレの分布が交わる場所とされているが、これまで歩いてきた観察地で見かけるのは、マキノスミレがほとんど。シハイスミレは、よく似ているが、葉の形が異なる。

濃紫色のスミレは、植物体の大きい順に、スミレ、ノジスミレ、ヒメスミレ。そのうち、スミレ、ノジスミレは、距も花弁と同じ濃い紫色をしているが、ヒメスミレは距が白い。スミレとノジスミレの違いは、葉を見ると分かりやすい。スミレには、葉柄に目立つ翼(よく。柄から張り出している部分)があるが、ノジスミレは無い、もしくは目立たない。スミレは道路端でも野路でも、一塊になって生えている印象がある。葉も大きく、立ち上がる。

白いスミレは、紫色のスミレに比べて、見かけることが少ないので、出会ったときのことを記してみる。まずは、フモトスミレ。観察を始めたばかりの頃、大谷の高砂山公園で見たのが最初だった。葉脈の白さが目立つ葉に、ピンクに色付いた距。雑木林の道沿いに点々と咲く小さな花を探して、下を向いて歩いた。春がやってくるごとに、フモトスミレのある雑木林は見つかり、今では数か所で確認している。武豊自然公園には、フモトスミレのほかにニョイスミレ(ツボスミレとも)も咲く。ほとんど歩く人のいない湿気のある坂道で、葉を繁らせて、小さな白い花を一斉に咲かせている。

名古屋市内では、西味鋺の新地蔵川沿いを歩いて、小学校側から慈恩橋を越えたあたりに、白いスミレがたくさん咲く。シロスミレという種があったなと思い調べてみたが、シロスミレは分布と生育地が、この路傍と一致しない。葉には翼があるので、スミレの白花というのがあるのかなと思っていたら、アリアケスミレに白花があるそうだ。スミレとアリアケスミレの違いは花の色なので、このスミレもアリアケスミレで良いだろう。熱田神宮にはヒゴスミレがある。5裂した葉が特徴。この花は、ここでしか見たことが無い。

すべてではないと思うが、知多半島、名古屋でよく見かけるスミレは、大体これくらい。淡紫色で、早春に人家の近くで咲くコスミレは、まだ見かけていない。

カモのいなくなった堀川を渡り、地下鉄に乗って、熱田神宮伝馬町駅で降りる。地上に上がり空を見ると、白かった。ほのかに水色が見える部分もあるが、ほぼ真っ白。空が白くても、白い雲が分かるのは、陰影があるから。当たり前と言えばそうなのだが、陰影があると立体的に見える。空が白いと、街路樹のコブシは目立たない、だいぶ散ってきた。そういえば、観察会をしている天白渓も「白い天(そら)」だなと思いついたところで、家に着いた。

翌朝、白かった空は暗く灰色の雲に覆われて、待望の雨が降っていた。

 

 

水の湧き出すところ

先日、椋鳩十を読む会で、「大造じいさんとガン」の舞台となった池について、みんなで話をした。「大造じいさんとガン」の前文には、栗野岳で猟をしていた大造じいさんが、話し上手の人で、その中にあったガン狩りの話をもとに作ったとある。丁寧な観察と、入念な取材をもとに書くことが信条であった椋鳩十の物語なので、実際にあった話なのかと思ってしまう人もいるが、そうでは無く、老猟師から聞いた話に、想像力と戦時下に生きる子どもたちへの想いを加えて、真に迫る作品とした創作物語である。

物語は、作ったものだが、ガンと大造じいさんの知恵比べの場となった池は、実際に存在する。鹿児島県姶良郡湧水町にある、三日月池である。湧水町という名が示す通り、霧島連山の山麓に位置する、この地域では、湧き水がたくさん出る。霧島連山は、日本有数の火山地帯であり、西の端にある栗野岳も火山なので、温泉が出るところも多い。三日月池も湧き水によってできる池で、江戸時代の貴重な郷土資料である「栗野由来記」には、「形状半月に似て周廻十六町、冬は出水なく、夏五月に水出ず」とあるそうだ。つまり、雨水を溜めるために黒鍬衆によって掘削された知多半島のため池とは異なり、大地の仕組みにより季節ごとに水があらわれたり、消えたりする池。そのような水辺には、ため池を好む植物とはまた異なる植物が自生する。三日月池は、ノハナショウブの自生南限地なのだそうだ。

湧き水ということでいうと、名古屋や知多半島を含む東海地方には、湧水湿地が点在している。知られているところでは、「東海丘陵湧水湿地群」という名称で、豊田市にある3つの湿地がラムサール条約に登録されている。湿地や湿地周辺に生える植物は、東海地方特有の植物が多く、東海丘陵要素植物と呼ばれる。15種類と、それほど多くないので、種名を列記すると、木本は、シデコブシ、マメナシ、ヘビノボラズ、モンゴリナラ、ヒトツバタゴ、クロミノニシゴリ、ナガボナツハゼ、ハナノキの8種。草本は、ナガバノイシモチソウ、トウカイコモウセンゴケ、ヒメミミカキグサ、ミカワシオガマ、シラタマホシクサ、ミカワバイケイソウ、ウンヌケの7種。聞いたことのある名前もあるのではないだろうか。

湧水湿地は、湿原とはでき方が違う。地表近くを流れる地下水が斜面に流れ出ることで湿地になる。環境変化の影響を受けやすく、開発や崩壊によって無くなってしまった湿地は数知れない。逆にいうと、それくらい人の生活と身近な場所に湧水湿地はあって、その水辺には、季節ごとに花々が咲き、水生昆虫が暮らし、野生動物がやってきていた。ただ、身近に湿地があることの重要性が、きちんと知られていたのかというと、そうではなかった、ということだろう。各地には、湿地の重要性に早くから気づき、保全活動や周知の活動をされてきた方々がいる。そうした方たちの地道な活動を、もっと多くの人たちに知ってほしい。

椋鳩十が生まれ育った伊那谷にも、そんな湧水湿地がある。3月半ばから4月上旬にかけて、飯田市や周辺地域の湿地では、ハナノキが赤い花を咲かせる。3月下旬に訪ねてみたところ、まだ葉の出ていない木の枝を彩る赤い花は、小さいながらも鮮やかで、野の春を祝福しているようだった。年度の変わり目は、桜だけでなくハナノキやスミレも咲く季節だ。

3月上旬に、講座を聴講するため新美南吉記念館を訪ねた。内容は、2年前の春季企画展示「君は即ち春を吸い込んだのだ~南吉のセンス・オブ・ワンダー」をもとに、館長の遠山さんが、レイチェル・カーソンの語る「センス・オブ・ワンダー」と南吉の自然に対する感性を重ね合わせて論じたお話。南吉の創作姿勢、北原白秋の教えや宮沢賢治の表現といった文学に生きた人々の話と、科学者・レイチェル・カーソンの言葉が、心地よく融和していく。とくに、南吉が安城高女の生徒たちに伝えたかった想いについては、すんなり腑に落ち、とても楽しい講座だった。文学が好きな人たちだけでなく、子どもと関わる仕事をされている人たちにも、この講座の話を聞ける機会が、これからたくさんあると良いなと思う。

新美南吉は、「この泉の水を汲んでくれ」といった。学芸員である遠山さんは、南吉の泉の水を汲んだ。南吉に限らず、自然を観察し、表現の源泉としていた文学者はたくさんいる。泉は、勝手に水が湧き出てくる不思議な場所ではなく、自然の因果にもとづき、地下を流れている水が、雨の影響で地表にあらわれるところ。地表に出た水は、いつのまにか周囲を潤し、多くの人たちが水の恵みを知る。これから、地下水が流れ出すほどの雨が、きっと降るはずだ。雨を降らせる人、水を汲む人が、各地に増えていく未来を楽しみにして。

 

 

4月・5月の観察会スケジュール

名古屋市内では、今年はずいぶん早く、桜が咲き始めました。4月・5月の観察会のお知らせです。

 

<4月の観察会スケジュール>

「阿島祭りを訪ねる」

日時:4/5(日) 12:30~16:00 ※お祭り終了後、解散。

場所:長野県下伊那郡喬木村

◇椋鳩十ゆかりの地・喬木村の春祭り「阿島祭り」を訪問します。全長20メートルの大獅子がお囃子に合わせて舞い踊ります。お祭りの前に、椋鳩十記念館・記念図書館も見学します。

 

「春の観察会・黒山に登る」

日時:4/19(日) 13:30~15:30

場所:美浜町奥田

◇美浜町には、町民の森という小高い山があり、頂上の黒山からは、伊勢湾・三河湾を望むことが出来ます。恋の水神社を出発し、春の様子を観察しながら、黒山を登ります。とても低い山ですので、小さいお子さんと一緒でも登頂できます。

内容の詳細はこちら

 

「第31回 西味鋺観察会」

日時:4/25(土) 10:00~12:00

場所:西味鋺コミュニティセンター

◇今回は、コミセンから少し離れた蛇池公園で、春の草花や昆虫などを観察します。集合は西味鋺コミュニティセンターです。

※参加のご連絡は、mail(at)hanayasuribooks.com(相地透)にお願いします。

 

「海浜植物の花をみる」

日時:4/29(水・祝) 13:30~15:30

場所:常滑市・小林町の海岸

◇恒例の観察会「海浜植物の花をみる」。観察地となる浜辺は、ゴールデンウイーク頃に海浜植物の花が見ごろとなります。立夏間近の心地よい浜辺を歩きます。

※内容の詳細は、4月中旬に掲載します。

 

<5月の観察会スケジュール>

「初夏の観察会」

日時:5/10(日) 13:30~15:30

場所:武豊町・自然公園

◇武豊町自然公園での観察会は、3年目。今年は、昨年の初夏の観察会よりも少し早い開催です。昨年はほとんど聞こえなかったハルゼミや、夏の到来を告げるホトトギスの鳴き声を探しながら、雑木林の花と生きものを観察します。

 

「第15回 椋鳩十を読む会」

日時:5/16(土) 11:00~12:00/13:30~16:30

場所:CORE SELDOM(芸音)/中生涯学習センター

◇午前の部は、スタジオで歌の練習をします。午後の部の課題図書は「孤島の野犬」です。3部作の長い物語ですので、「椋鳩十の野犬物語」(理論社)には、2部、3部しか収録されていません。全文は「椋鳩十全集(5)孤島の野犬」(ポプラ社)、「孤島の野犬」(偕成社文庫)で読むことが出来ます。当日は、3部作のうち「丘の野犬」を読む予定です。「椋鳩十と戦争」は、「第6章」(片耳の大シカの章)を読みます。会場は、いつもの昭和生涯学習センターでは、ありません。ご注意ください。

 

「ヒメボタルの観察会」

日時:5/23(土) 21:30~23:00

場所:東海市・姫島神社ほか(変更の場合あり)

◇2年ぶりに、ヒメボタルの観察会です。ヒメボタルは、一生を陸で過ごす陸生ホタル。主に雑木林などに生息しています。オスは、金色の光をピカピカと点滅させながら、木々の間を飛び、メスを探します。飛翔発光の始まる時間が、深夜になるため、21時半頃から観察を始めます。

 

※5月の観察会の詳細は、4月下旬以降にお知らせします。

 

「天白渓観察会」のお知らせ

名古屋市東部には丘陵地があり、雑木林が広い範囲で残っています。3回目となる「天白渓観察会」は、昨年春よりもひと月早い開催です。天白渓の地形を知りながら、コバノミツバツツジや、各種スミレの花など、春の様子を観察します。(写真は、マキノスミレ。3月撮影)

〇日程/2026年3月29日(日) ※雨天中止

〇時間/9:45集合~12:00頃、終了予定 ※場合によっては30分ほど延長することもあります。余裕をもってご参加ください。

〇集合場所/観察場所は、名古屋市天白区の雑木林です。集合場所は、参加のご連絡を頂いた方に、後日お知らせします。 地図はこちら

〇費用/無料

〇その他/周辺にトイレはありませんので、済ませてからお越しください。森の道を歩きます。途中ぬかるんでいる場所などもありますので、歩きやすい靴でお越しください。今回は、雑木林を一周します。いつもよりも15分早く、9:45集合でお願いします。メモを取る場合は、筆記用具をご用意ください。

★予定の変更など/開催日の前に、予定の変更など、ご連絡をする事があります。その場合は、お申し込みいただいたメールアドレスにご連絡しますので、お手数ですが、当日の前に一度メールをご確認ください。よろしくお願い致します。

 

終了しました。ご参加いただきありがとうございました。

 

「阿島祭りを訪ねる」

3月に入り、喬木村では、福寿草の花が咲き、遠太鼓の音が聞こえてくる季節になりました。2年ぶりに、椋文学の里・喬木村の春祭り、「阿島祭り」を訪問します。伊那谷には獅子舞のお祭りがたくさんありますが、「阿島祭り」の獅子舞は、全長20メートル。クライマックスでは、椋鳩十も子どもの頃に遊び場にした安養寺境内で、大獅子がテンポの良いお囃子に合わせて、ダイナミックに曳き回されます。椋鳩十記念館・記念図書館も訪問しますので、椋文学にご関心のある方は、その生涯を知ることも出来ます。桜の季節、のんびりお花見も兼ねて、迫力ある大獅子を観に行きましょう。是非、ご参加ください。

 

〇日程/2026年4月5日(日)
〇行程/12時半頃、椋鳩十記念館・記念図書館に集合。1時間ほど記念館を見学し、会場となる逢橋へ移動。獅子舞とともに安養寺へ移動。15時半頃、阿島祭り終了。時間に余裕がある人で、椋鳩十生家跡地(安養寺から徒歩7~8分)を訪ねて、解散。

 

椋鳩十記念館・記念図書館の場所はこちら

 

◇喬木村へのアクセス方法/(自動車の場合)中央自動車道「飯田IC」を下りて、国道153号線を飯田市街地方面へ。20分程走り、「座光寺」交差点を右折し、喬木村方面へ。阿島橋を渡り、直進。県道18号を右折すると、左手に椋鳩十記念館・記念図書館。記念館裏に広い駐車場有り。名古屋から約2時間。

(高速バスの場合)①名古屋から飯田/名鉄バスセンター(名駅)9:00発 → 飯田駅11:09着(運賃:2,900円)②飯田から喬木村/喬木村椋鳩十記念館・記念図書館まで、タクシー(駅前にタクシー会社有り)で、約15分 ③飯田から名古屋(帰り)/飯田駅前17:34発 → 名鉄バスセンター(名駅)19:35着

 

<阿島祭りとは>
・長野県下伊那郡喬木村の阿島地区で、毎年4月第一週の土日に行われる春祭り。
・阿島の獅子舞は獅子頭に続く胴体の部分が約20メートルもあり、中に数十人が入って獅子を動かします。「あばれ獅子」の異名の如くに舞い荒れる獅子に、観客は一斉に逃げ回り、逃げる観客を追って獅子が舞い踊ります。これは、本来農耕開始の時期に当って地域内を祓い清め悪霊を鎮魂・鎮送するという民俗的行事のあらわれであるといわれています。
・小学校の国語教材でもおなじみの「大造じいさんとガン」など、人と動物の生命にまつわる文学作品を数多く残した作家・椋鳩十。喬木村は、椋鳩十が生まれ育った土地であり、自然の美しさに気づかせ、その文学の源泉となった場所です。現在は、椋鳩十記念館・記念図書館で、その生涯と想いを知ることが出来ます。

 

終了しました。ご参加いただきありがとうございました。

 

続・春を待ちながら

1月に一度、写真を整理したのだが、生きものについては、撮影データをすぐに確認できるようにしておこうと思い、2月半ばから撮影日や場所を表に記入していった。ついでに未確認にしてあったものも、できる範囲で確認していき、2週間かけてようやく終了。そうこうしているうちに、啓蟄になった。本格的に、生きもの達が動き出す。

観察場所に行き、時間をかけて歩きながら、出会った生きもの、植物、風景などを撮っていくという写真の撮り方をしているので、珍しい生きものは、それほど多くはない。どちらかというと、よく出会う生きものを何回も撮っていることが多い。一つの場所に時間をかけて、また、一年を通して何度も訪ねているので、一般的には、あまり注目されないような小さな生きものを撮っていることも、よくある。写真の整理をしながら、あらためて興味を引いた、そんな生きものについて、少し書いてみようと思う。

ユスリカ。「HANAYASURI」を作っているとき、ため池とユスリカをテーマに、近藤繫生先生に文章を寄せてもらった。観察会の報告会では、パワーポイントを使って解説していただき、誌面にもその内容を掲載した。ユスリカは、蚊に似た外見であるが、吸血しない。幼虫は、釣り餌にもされる赤虫で、水質浄化に役立っているという研究もある。どうしても大量発生した際の公害で注目されてしまうが、自然界においては、とても役に立つ存在と教えていただいた。日本には、高山から海岸まで、2000種以上いるくらい、種数も多い。四季を通してあらわれ、ある専門家の方は、「一年を通じて、われわれの生活の中で見かけない日はない」と書き記している。

観察をしていて、ユスリカと出会う機会は、たしかに多い。見かけると、少し時間をかけて葉などに止まるのを待ち、写真を撮る。撮った写真から後日、名前を調べようと試みるのだが、それぞれの種についての解説があまり見つからないため、ほとんど「ユスリカ類」に留めている。そのうち、知多半島のユスリカをテーマにした小冊子が作れないだろうかと考えながら、今は少しずつ、写真を撮り溜めている。

ザトウムシ。ザトウムシは、メクラグモという名前で呼ばれることが多かった。脚は8本あり、昆虫ではなく、クモガタ類に分類される。クモ、サソリ、ダニなどが近しい。ユスリカは、極地を含む世界中のあらゆるところに生息しているが、ザトウムシも極地、乾燥地以外のあらゆる陸地に棲んでいる。畑で土を掘ったり、枯れ草をどかしていると、サササッと素早く逃げていく。雑木林にもいて、赤い棘のあるゴホントゲザトウムシと出会うことが多い。以前、美浜町の海岸でザトウムシを見つけた。「おや、こんなところにザトウムシ」と、写真に撮ったのだが、海岸性のザトウムシは、ヒトハリザトウムシが唯一の種。自然海岸が減っているため、環境省のレッドデータで準絶滅危惧(NT)に指定されている。

ハエトリグモ。ハエトリグモは、巣を作らない徘徊性のクモの仲間で、種数も多く、日本では100種以上が確認されている。身近に出会うことも多い。家屋に棲み、黒い体に白い一本線が目立つアダンソンハエトリなどが、よく知られている。そういえば、家で飼っている黒猫の青葉が、拾ってきてすぐ、まだ手のひらに乗るくらいの大きさだった頃に、目の前をピョンピョンと跳ねるアダンソンハエトリを見つけて、遊んでいたことがあった。知多半島で観察していたとき、草むらでエサを捕獲していたハエトリグモがいたので調べてみると、ネコハエトリという種。体の毛並みや口元のモサモサした感じが、たしかにネコっぽいかなと思った。名古屋市では、2023年に生物多様性センターの主催で、市内と一部市外のハエトリグモを一斉調査したところ、市内で33種(市外を含むと35種)が見つかったそうだ。新しく見つかったものもあり、これまでに40種が確認されている。

最後に、イシノミについて。イシノミは、翅をもたない原始的な昆虫の仲間で、湿った土壌に棲む。古生代デボン紀の地層から化石が発掘されている、生きた化石。緑藻や地衣類を食べ、3年ほど生きる。知多半島でも、ため池近くの湿った地面や、雑木林の倒木近くで見かけるが、日本では、十数種しか知られていない。変化しないもの、単純なものをエネルギー源とし、自分たちも大きく変化せず、4億年という長い期間、世代交代を繰り返してきたということだろうか。激しい環境変化に身を変え続け、種数を増やし繁栄するものもいれば、単純で安定したものを選んだがゆえに、長く生き残るものもいるのだろう。

 

 

西味鋺観察会のスケジュール

2026年西味鋺観察会のスケジュールが決まりましたので、お知らせします。

西味鋺観察会は、名古屋市北区の西味鋺学区で開催している観察会です。学区内や近隣地域を流れる川の生きもの、周辺の草花、やってくる昆虫など、一年を通して私たちの生活に身近な自然を観察しています。

他地域からのご参加も大歓迎です。集合場所は、西味鋺コミュニティセンター。10時集合です(8月を除く)。参加を希望される方は、mail(at)hanayasuribooks.comまでご連絡ください。

 

① 2月7日(土):テーマ「七草粥を食べる」 終了

② 4月25日(土):テーマ「春の花と虫を探す(蛇池公園)」

③ 6月27日(土):テーマ「矢田川で生き物を探す」

④ 8月29日(土):テーマ「灯火採集と鳴く虫の観察<夜開催>」

⑤ 10月31日(土):テーマ「三社を巡り、木の実を探す」

⑥ 12月19日(土):テーマ「冬の鳥を探す」

 

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