十月の日誌(中)

10月9日。紙の温度の講座に参加する。宍倉先生のお話を聞くのは3回目。一昨年は、先生の専門分野である植物繊維について。植物繊維といっても植物によって特徴がずいぶん違う。繊維の長さや硬さから紙漉きに用いられている植物の特徴を知る。繊維を攪拌して解すビーター(叩解機)の仕組みやビーターを動かすタービンのことなど専門的な内容が難しくも楽しかった。昨年は、和紙の原料となる植物の話。和紙に用いられる一般的な植物コウゾ、ミツマタ、ガンピ。練りにはトロロアオイが使われるが、整髪料に用いられたサネカズラが試された時代もあったそうだ。古代から繊維をとるために栽培された苧麻は、熱田神宮の周辺にもあるんじゃないかなと仰っていた。苧麻とは、種名でいうとカラムシのこと。カラムシは、知多半島でもよく茂っているのを見かけるイラクサ科の植物。

今回は、美術に使われた和紙についてのお話。まずは書に使われる紙の変遷について。聖徳太子は仏教の普及にあたり写経を勧める。奈良時代の打紙から始まり、平安時代に流し漉きが登場する。僧侶や貴族が用いた紙は、苧麻と雁皮を混合した白くて厚い紙。その後、鎌倉武士たちが勉学に励むようになり、ミツマタを使用した柿色の修善寺紙が用いられるようになる。室町時代には全国へと広まった。江戸時代になると、寺子屋での勉強にミツマタの紙である駿河半紙が普及する。書だけでなく、日本画、版画に使われた紙の話もそれぞれに内容の濃いお話で、とても勉強になった。店舗併設のギャラリーでは、花や実、キノコ、生きものなどをモチーフにした、美しい和紙の色が目を引く、切り絵作品が展示されていた。

10月11日。モンテッソーリ読書会について打ち合わせをするため、子どもの家を訪ねる。先日の明智でのことを話しながら、ヒトツバタゴの自生地や、他にも明智の自然のことについて教えてもらう。7月にあらわれるホタルの話になる。田んぼや草むらだけでなく、木の上でもたくさん光っているのだが、ヘイケボタルなのかは分からないそうだ。新美南吉の童話「木の祭り」を思い出す。来年の夏、訪ねてみたい。

10月12日。揖斐川町に行く。いろいろ考えることの多いフィールドワークだった。

10月13日。モンテッソーリ読書会で話し合う校庭の話を聞くため、緑区に行く。知多半島で行われていた、学校の先生方の勉強会である「授業の会」に参加されていて、観察会や写真展にも来てくださった方に、勤務先の小学校の側溝にいるモクズガニのことを教えてもらう。この勤務先の小学校は、父が最初に勤めた小学校でもある。当時からカニは多かったそうで、近くには「蟹田」という地名もある。「実際に見てもらった方が早いと思います」と提案してくださったので、そのまま小学校に行くことにした。

運動会の代休日で静かな小学校。広い運動場と校舎の並ぶ境に側溝があった。底が見える側溝蓋をのぞき込むと、すぐに一匹見つけた。側溝沿いを歩くと、もう一匹。「見つからないこともあるんですけど、今日はいますね」とのこと。以前は、渡り廊下をカニがよく歩いていたそうだ。この小学校のすぐ傍には川が流れている。海に近いため、潮の干満の影響を受ける。側溝の経路をたどっていくと、水路を通って川に行くのだろう。父曰く、「普通はアメリカザリガニを飼育するけれど、校庭でモクズガニが捕まえられるなら、その方がおもしろい」とのこと。身の回りの自然環境を知ると、そのまま子どもの学びに活きてくる。

校庭と中庭を歩かせてもらい、父が30年前につくった観察池、道路の拡張工事で持ち込まれた古い石の道標、学校創立時から使われている倉庫などを見る。イチョウの木の下には銀杏がたくさん落ちていた。ここの銀杏は美味しいそうだ。校庭や中庭には野草も多く、イヌタデやハゼランが咲いていた。校門を出ると、フェンスにからまったノブドウの実が色づいていた。水路にはカワセミが来たこともあったそうだ。フェンス沿いを歩くと、タンキリマメの実。赤いさやが開いて、さやの両端に種が付いている。一緒に来ていた先生のお子さんが、「これ、何」と持ってきたのは、クスノキの実。緑色のまま落ちたものもあれば、黒く色づいて落ちたものもある。4歳の男の子は、木に実が付いているところをじっと見上げて、いくつも実を拾っていた。日が暮れてきたので、お礼を言い、帰宅した。

10月17日。昭和文化小劇場にダンス公演を観に行く。ダンサー倉知可英さんの三十周年記念公演「螺旋の旅」。生命の誕生。混沌、秩序、歓喜、孤独。先達への感謝。過去と未来の架け橋は、人の想いと縁。人の縁(出会い)は、どのように生まれるのだろう。<下へ続く>