知多半島の最南端に位置する南知多町。人口はおよそ1万5000人。1958(昭和33)年に、愛知県で最初に指定された国定公園「三河湾国定公園」の一部であり、薪炭としても活用されたウバメガシを中心とする雑木林が、町の半分ほどの面積を占めている。沿岸部では水産業が盛んで、漁獲量は県内一。海浜植物が生育する砂浜や、海辺の生きものたちが生息する岩礁も、かつてに比べるとずいぶん減ってしまったが、まだ残っている。
町内の各地区は、三河湾側の北から時計回りに、豊丘、大井、片名と続き、半島先端に羽豆岬のある師崎。伊勢湾側に回って、豊浜、山海、内海。内海を過ぎると、観察会の開催地でもある美浜町の小野浦となる。島しょ部では、篠島、日間賀島が南知多町になる。
南知多町のなかでも、これまで縁のある地区が大井と内海だ。大井には、最近は滅多に見かけなくなってしまったシュンランが自生している森がある。海沿いでは、鳶ヶ崎という岬の名前が示すとおり、トビが営巣しており、一年中、空を見上げると飛んでいる。冬場は、ツルウメモドキなど木の実も豊富で、サネカズラの実は多く見かける。あちらこちらで真紅の実が垂れ下がっていて、寒風のなかを歩いていても、見ると少し明るい気持ちになる。
昨年の6月、以前からとてもお世話になっている味噌・たまり蔵の徳吉醸造さんを訪ねると、「ちょうど今の時期は、クサフグの産卵時期です」と教えていただいた。シーズンは6月いっぱい、新月と満月の頃、満潮の3時間ほど前が産卵ピークとのことだった。月齢を調べて、新月の日に、上陸大師像のある聖崎公園に行ってみた。岸壁沿いのテトラポット下の砂地で、数百匹のクサフグが波に揺られながら、産卵行動を繰り広げていた。毎年調査している研究者の方が来ていて、「以前は砂がもっとあったので、クサフグの数も多かったのですが」とおっしゃっていた。大井は、まだまだ自然の不思議と出会える土地だと思う。
もう一つの地区、内海も楽しい土地である。一般的には、夏に砂浜が海水浴客でにぎわうことで知られており、「砂時計の町」という看板もあちこちで見かける。
海水浴場のある浜から、東へしばらく行くと、つぶてヶ浦がある。海岸は岩礁が広がっているのだが、ここの岩には、対岸の伊勢から力比べで神さまが投げた岩が落ちたもの、という言い伝えがあり、鳥居が立つ。古くは浜で塩づくりが行われていたので、製塩土器の欠片もよく見つかる。夏場に岩礁にできたタイドプールをのぞくと、クロナマコやヒライソガニがいたり、ギンポが貝のなかに隠れていたり。砂浜ではスナガニが地面に穴をあけて生活していて、遠目に見ていると、砂団子を巣から運び出している。海浜植物も春から初夏にかけて花が咲き、ハマダイコン、ハマヒルガオ、ハマエンドウなどが彩る。
昨年の秋に、たまたま、同じようにこのつぶてヶ浦に魅かれて作品づくりをされている方と奥さまと、ギャラリー「ガルリラペ」で知り合いになったのだが、実は、私が子どもの頃にすでに出会っていたことが分かって、とても驚いた。縁というものは、本当に不思議なものだと、つくづく感じる。
内海の集落には、入見神社という神社があるのだが、ここものどかな雰囲気が漂う気持ちのいい神社だ。狛犬の姿形が個性的で楽しい。近所には、鳥の観察でお世話になっている方が住んでみえて、よく訪ねるのだが、名古屋から知多半島道路を走ってきて、集落に入ると、ふっと心のテンポが変わる。何が理由なのかはよく分からない。
忘れてはいけないのが、内海には「はじまりの森」がある。2019年8月、最初に訪ねた3か所の観察地のうちの一つ。スギとウバメガシの森で、この5年半で一番足を運んでいる場所。ここで出会った生きものや植物には印象的なものも多い。同じように、この谷筋と森をチョウの観察場所にしている方とも知り合い、また訪ねる楽しみが増えた。
南知多には興味のある場所が、まだまだ多くある。山海の海岸には、岩礁が続く場所がある。豊浜の小佐漁港の近くから急坂を上ると、山から海が一望でき、一面に畑が広がる。内海には、小高い場所を選んで石の四天王像が立てられているが、それぞれ興味深い森である。大井には湧水湿地があるという話も聞く。観察テーマは、まだまだ尽きない。
観察だけでなく、南知多の自然や土地に魅かれて訪れた人たちが、さまざまな表現活動を始める、そんな未来も想像してみる。世界を例にとれば、ブルターニュ、スケーエンなどが思い出される。なんだか、とても楽しそうだ。