観察会が近づくと、大体十日くらい前から天気予報をチェックしはじめる。当日の前後が晴れマークになっていれば、おおむね開催できる。判断が難しいのは、台風が来ているときと、曇りに雨マークが付いているとき。なるべく直前まで開催することを考えるのだけれども、早めに中止した方が、参加する方たちが予定を変更しやすいということもある。今年は夏を通して、台風の発生、本州への影響が多かった。それと、降るときと止むときの予測がつきにくい長雨。思い返すと、昨年、「雷が鳴るのを最近聞かないね」と話していたけれども、今年は何回も激しい雷を聞いた。年のはじめには、雨がまったく降らず、春先にはダムが渇水状態になっていた。今は、都市部の排水が追い付かないほどの大雨。
9月4日。鳴く虫の観察会の前日。予報は、曇りときどき雨だった。悩んだ結果、雨が降る可能性もあるし、雨が止んでも、この後、数日以上雨マークが続いているので、湿度も高くなるだろう。鳴いている虫の数も少ないだろうと、延期の連絡をメールした。
ところが翌日は、気温も下がって涼しく、少し風のある絶好の観察会日和となってしまった。残念。しばらく落ち込んだが、決めてしまったので仕方がない。鳴く虫の観察会は、今月20日と23日に開催するので、今度こそ、すっきり秋晴れになると良いなと思う。
気持ちを切り替えて、この日は、20日に開催する矢勝川での鳴く虫の観察会の下見をすることにした。矢勝川では昨年の下見のときに、タイワンクツワムシの音を聞いている。その確認も兼ねて、日が暮れる頃、半田市に向かった。
車を降りると、すっかり夜。童話の森から、アオマツムシが「リーリーリーリー」とにぎやかに鳴いているのが聞こえる。記念館西側の道路の向かいの草むらで「ジャッ、ジャッ」と大きめの音が聞こえた。タイワンクツワムシ。こんなにすぐに聞こえるとは思わなかった。タイワンクツワムシは、局所分布する。いる場所にはいるのだが、その場所を中心に広がりをもって生息しているわけではなく、狭い範囲にかたまって生息している。大きさはクツワムシと同じくらいか、やや大きくて、褐色。知多半島では、阿久比の田んぼにそれなりの数がいるほか、数か所、生息地がある。名古屋では、天白川沿いにいるそうだ。ちなみに、熱田にはいない。これだけ早く出会えたということは、もう少しいるだろうと、矢勝川沿いを歩くと、民家の隣りの茂みや、川沿いの茂みなどでガシャガシャ鳴いていた。
観察会で歩くコースには、思った以上にたくさんの鳴く虫がいた。代表的なコオロギ類であるエンマコオロギ、ミツカドコオロギ、ツヅレサセコオロギ、ハラオカメコオロギ。それらと姿は似ているが、初夏から鳴く音が聞こえるタンボコオロギ。童話の森だけでなく、ハンノキでも盛んに鳴いているアオマツムシ。「チン、チンチロリン」と鳴くマツムシは、アオマツムシとはまったく別の種。木の上ではなく、草むらで鳴いている。スズムシは、盛夏に鳴くので、9月は生を終える時期。この日は、音のかすれたスズムシが一頭だけ鳴いていた。「ルーーーー」と断続的に鳴くカンタンもいくつか聞くことができ、姿形はほとんど同じだが、「ビーーー、ビーー、ビーーー」と切れながら鳴くヒロバネカンタンの音も聞こえた。ヒロバネカンタンは歩きながら鳴く。とても小さなヒバリモドキ科のコオロギでは、春から聞くことができるキンヒバリと、シバスズ、ヒゲシロスズがいた。
キリギリスの仲間はというと、まずは「シリリリッ」と鳴くヒメギス。田んぼ近くの草むらなどにいて、初夏に茶黒いからだの幼虫をよく見かける。ササキリの仲間では、ホシササキリとウスイロササキリが鳴いていた。「シャッ、シャッ、」と切れながら鳴き始め、「シャシャシャシャ……、シャーツ、シャーツ、シャーツ」と終わる、鳴き方に一連の流れがあるセスジツユムシ。「ジーーーー」と大きい音で鳴く虫の仲間は、いくつかいるのだが、ここではクビキリギスとクサキリが鳴いていた。コオロギでもキリギリスの仲間でもない、ケラも田んぼ近くの地面で「グルーーー」と低い音を立てていた。記念館敷地内の木の上で、アオマツムシに負けじと鳴いていたカンタンをいれて、この日聞こえた虫の音は、22種。
昨年、一昨年に童話の森や矢勝川周辺で聞いて、この日は聞けなかった虫がいる。それら(キリギリス、マダラスズ、ヤブキリ、オナガササキリ、ハタケノウマオイ)を足すと、27種。この矢勝川周辺が多様性のある鳴く虫環境であることが分かった。20日、今よりも秋めいた矢勝川では、何種類の虫の音が聞こえるだろうか。月はきれいだろうか。
