7月のある日のこと。数日間、安定しない天気が続いていたのだが、その日は少し晴れていたので、朝、歩きに行くことにした。家の玄関を出て、すぐ隣の学校の塀に、昆虫が止まっていた。「おや、ウスバカゲロウだ……」と思い、近づく。この辺りにウスバカゲロウが生息するような雑木林はないので、知多半島から持ち帰った土に、幼虫か繭が紛れ込んでいたのだろう。近づいて翅をよく見ると、いつも見ているウスバカゲロウと様子が違う。翅脈がはっきりしていて、よく見ると茶黒い部分がある。腹部はまだら模様が目立つ。歩きに行くのをやめて、家に戻り、図鑑で確認したところ、カスリウスバカゲロウだった。
水のきれいな川に棲み、幼虫が水生昆虫であるカゲロウに対して、ウスバカゲロウやクサカゲロウの仲間は、アミメカゲロウ目に分類される。身近な昆虫が掲載されている手持ちのポケット図鑑でウスバカゲロウの仲間を調べてみると、載っているのは4種。ウスバカゲロウ、コウスバカゲロウ、ホシウスバカゲロウ、カスリウスバカゲロウである。
ウスバカゲロウ、コウスバカゲロウは、よく見かける。なぜかというと、この両種の幼虫、つまりアリジゴクは、すり鉢状の巣をつくる。知多半島でも知多市の日長神社、常滑市の多賀神社や高砂山公園、美浜町、南知多町など、数え始めたらきりがないほど、アリジゴクの巣は見ている。アリジゴクが繭をつくり、ウスバカゲロウになって雑木林にあらわれるのは、梅雨の終わり頃から。巣のある場所を確認しておけば、夏に出会える。
一方、ホシウスバカゲロウ、カスリウスバカゲロウの幼虫は、アリジゴクであることは同じだが、徘徊性で巣をつくらない。幼虫と出会ったことは、これまでに一度もない。成虫はどうかというと、カスリウスバカゲロウを見たのは、今回が初めて。ホシウスバカゲロウは、これまでに数回出会っている。場所は、南知多町と阿久比町。ホシウスバカゲロウは翅にもやっとした斑がある。
アミメカゲロウ目の他の種を見てみると、クサカゲロウの仲間も図鑑には4種の記載がある。ヨツボシクサカゲロウ、クサカゲロウ、カオマダラクサカゲロウ、アミメクサカゲロウ。一番よく見かけるのは、ヨツボシクサカゲロウ。顔に四つの黒い斑があることが名前の由来だそうだが、小さすぎて、肉眼では見えない。印象としては、翅脈があおく、飛んでいると、翡翠のようなきれいな色をしている。カオマダラクサカゲロウは、ヨツボシクサカゲロウとよく似ているが、小さい。アミメクサカゲロウは、ヨツボシクサカゲロウよりも大きく、翅の幅が広いので、見分けがつく。クサカゲロウ中のクサカゲロウを見たことがないのは、なんとなく寂しいのだが、生息する場所が他種とは異なるのだろうか。
ウスバカゲロウ、クサカゲロウの仲間以外の種を見てみると、スカシヒロバカゲロウは、南知多町の雑木林で出会った。腹部が黄色くて、翅にうっすらと斑が入る。図鑑の解説によると、「ヒロバカゲロウ類の幼虫は湿ったコケなどから見つかっているが、詳しい生態などはよくわかっていない」そうだ。ツノトンボは、常滑市で出会った。ヘビトンボ、センブリ、カマキリモドキは、知多半島では今のところ見かけていない。
昨年、天白渓でカゲロウを見た。目の前をふわりと小さな虫が飛んでいて、目で追うと3本の長い尾が見えた。カゲロウというと、知多半島では、南知多町にクロタニガワカゲロウが生息している小川がある。きれいな川に棲んでいるイメージがあるので、名古屋にもカゲロウがいるのだなと印象に残った。
今年の2月、名古屋市環境科学調査センターの研究調査発表会に参加した。藤前干潟に漂着するマイクロプラスチックの調査など、研究員の方たちによるいくつかの発表が行われるなか、とくに聞きたかったのは、「生き物で水環境を測る」をテーマとした発表である。
名古屋市では、河川の水質を評価するのに、微生物が水の汚れを食べて分解するときに消費する酸素の量を測るBOD調査と同時に、水に棲む生きものを調べて水環境を評価する取り組みも行っている。名古屋市の環境白書を見ると、今回の調査で見つかった水生生物が記載されている。カゲロウ目は、27種(同定されているものは22種)。たくさんいることに驚きつつ、市内の河川がきれいになってきていることに、安心した。庄内川がとくに、BOD、生き物による水環境の評価ともに高かったそうだ。さらに良くしていくための課題は、まだたくさんあるだろうが、こうした調査報告が聞けるのは、嬉しいものである。
