セッカ、ヤブサメ、センダイムシクイ

9月の最終日。2階の仕事場で文章を書いていると、玄関から母親の大きな声が聞こえてきた。どうやら靴を履こうとして、何かあったようである。どうしたのだろうと、階段の上から階下を覗くと、「鳥! えー、なんで靴のなかに!?」と驚いている。靴のなかに鳥が入っていたようだ。「青葉だね、きっと」と話していると、仕事場の資料ケースのなかに丸く収まって寝ていた黒猫の青葉が、いつの間にかそばにやってきて、「やっと、見つけてくれたにゃんね」とでも言わんばかりに、大あくびをした。

青葉が捕まえてきた鳥は、すでに死んでいた。体には、まったく傷が無かったので、弱っていたところを咥えてきたのだろうか。判然としないが、全体的に褐色でスズメよりも小さい鳥である。何の鳥だろうということになり、いつも通り、調べてみることにした。いつも通りというのは、鳥を捕まえてくるのは、これが初めてではなく、すでに2回、同じように捕まえてきからである。

一度は、ヒヨドリの幼鳥だった。このときは、元気なヒヨドリをばくっと咥えたらしく、興奮した様子で勢いよく庭から駆け込んできた。「つかまえたにゃっ! つかまえたにゃっ!」。表情と行動で、そう思っているのだと分かる。机の下に隠そうとしたのだが、ここでヒヨドリが大暴れ。羽根をまき散らして、なんとか逃げ出す。追っかける青葉。家を飛び回りどこに行ったかと思ったら、服などが掛けてある部屋に来ていた。ヒヨドリは、ハンガーに掛けてあるスーツにとまって、どうしようかと思案中。青葉が見失っているうちに放してあげようと、捕虫網で捕まえた。ちゃんと飛べるだろうかと心配だったが、玄関を出て放す場所を探している隙に、ぱっと飛び立っていった。

最初に捕まえてきたのは一昨年。今回と同じような秋で、似たような褐色の小鳥だった。このときは調べてみて、セッカでいいんじゃないだろうか、ということにした。その一件で、セッカという鳥を認識したのだが、初夏のある日、南知多町で鳥の観察をしていると「ヒッヒッヒッ……」という高い声が、田んぼのそばの茂みから聞こえて、「セッカの声です」と教えてもらった。「ヒッヒッヒッ……」と鳴きながら高く空に飛び、「チャチャチャ」と声音を変えて、下りてくる。鳴き方に特徴があるので、すぐに覚えると、数日後、トビハゼを探しに東浦町の干潟を訪ねたときにも、田んぼのそばで鳴いていた。

だが、まてよ? こんなに分かりやすい声で鳴いているのに、家の付近でこれまでにセッカの声を聞いた記憶がない。近所には、1キロほど離れた七里の渡し付近に小さなヨシ帯はあるけれども、草丈の長い茂みは無い。どこで青葉はセッカを捕まえてきたのだろう? なんとなく疑問には思っていたのだが、あらためて調べてみると、セッカではなかった。青葉が一昨年と今年、同じ時期に捕まえてきたのは、ヤブサメだった。

8月下旬、大府市にある二ツ池公園を訪ねた。目的は、淡水に棲むマミズクラゲ。このため池では、夏から秋にかけて、マミズクラゲがあらわれる。昨年は、大量発生していたが、訪ねた時期が10月と、少し遅かったためか、たくさんのクラゲを池で見ることはできず、自然観察施設セレトナの水槽で、ゆらゆら泳ぐマミズクラゲを観察した。今年は、逆に時期が早すぎたようで、まだ見つかっていないとのことだった。

マミズクラゲがいないかなと思い、建物の外に設置されたウッドデッキに出てみる。水面に目を凝らすが、見つからない。館内に戻ろうとすると、緑がかった羽の小鳥が落ちて死んでいた。館の方に聞くと、「センダイムシクイですね」と教えてくださった。

今回のエッセイに登場した、3種の小鳥はよく似ている。特徴を簡単に整理しておくと、セッカは体長12センチほど。体は淡い褐色でスズメのような黒い縦斑がある。ヤブサメは10センチほどで、セッカより小さい。全体的に褐色で羽は暗く、お腹の辺りは明るい。目を真っすぐ通る黒い斑と、眉のような白い斑が目立つ。尾羽はセッカのように長くない。センダイムシクイは、セッカと同じくらいの大きさ。尾羽も長いが、羽は暗緑色。ほかにもくちばしなどにも違いがある。ちなみに、街中で見かけることが減ってきたスズメと、大きさを比較してみると、スズメは、これら3種よりもう少し大きく、14センチくらいである。

鳥を見分けるのは難しいが、鳴き声にしても、体の特徴にしても、分かってくると、とても楽しい。一つ一つ、繰り返し丁寧に覚えていこうと思う。