7月も後半になり、毎日、暑い日が続く。東海地方では、日中の最高気温が40度を超す場所が何か所も出てきている。今年、最高気温40度以上の日は、酷暑日と名づけられた。10年ほど前、よく聞いていたラジオの音楽番組で、35度以上の日が猛暑日という名前になったという話をしていた。イギリス出身のラジオDJは、毎日暑すぎると言いながら、テンション高く「MOSHO-BI!!(モショビッ!!)」と連呼し、発音がちょっと英語に似てるね、と笑っていた。これだけ暑ければ、そんなテンションにもなるよな、と笑いながら聞いていたのだが、年々気温は上がり続け、さらに5度高い日の名前まで出来てしまった。
夜でも暑いので、気分だけでも涼しくなれそうな本はないだろうかと、本棚を探す。まだ読めていない本の中から「北欧の小さな旅 ラップランド幻想紀行」(小谷明/東京書籍、1995)を読み始める。ラップランドとは、スカンジナビア半島の北部、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、一部ロシアにまたがる地域を指す。トナカイを放牧して暮らすラップ人(ラップという言葉が「追われた」という意味をもつため、現在は現地の人たちが用いるサーミと呼ぶ)を訪ねた旅のエッセイ。著者が撮影した写真は、ありのまま、きれいである。雪におおわれた大地、赤い毛糸が鮮やかな民族衣装、海辺の暮らしや風景。列をなすトナカイ。サーミの人たちがトナカイに橇を引かせる姿は、サンタクロースの原型となったと言われるそうだが、それも頷ける。実際そうなのかどうかは、よく分かっていないようだ。読み終わる頃には、脳内の暑気が、少しだけ抜けた気がした。
北欧というと、スウェーデン、フィンランド、ノルウェーに、デンマークを加えた4か国を指すのが一般的だと思う。北欧4か国は、児童文学作家を数多く輩出している。
「長くつ下のピッピ」の作者、アストリッド・リンドグレーンは、スウェーデンの作家。子どもの権利と個性を尊重するという作家としての姿勢が、世界的に評価されている。リンドグレーンの物語に出てくる子どもたちは、元気である。
コロナウィルスによる社会変化が起こる少し前、リンドグレーンの翻訳をされている方の講演を聞きに行った。海外の児童文学が好きな方たちに根強い人気を誇るリンドグレーンの作品。よく知られた先人の翻訳があるだけに、プレッシャーもあるが、なるべく現代の子どもたちにも分かるように翻訳されるそう。スウェーデンに行くと、高山植物が低地にあることを楽しそうに話されていて、100人くらい入っていた会場の雰囲気も和やかだった。
スウェーデンの東隣りの国フィンランドは、ムーミンの国である。リンドグレーンと同時代の作家、トーベ・ヤンソンが生んだムーミン・トロールは、第二次世界大戦中、雑誌の風刺画に描かれたことに始まる。ファンタジーでありながらも北欧の景色が目に浮かび、登場人物たちの発言や行動はそれぞれに個性的で、大人であっても楽しく読める。
スウェーデンの西隣りの国、ノルウェー。1990年代に「ソフィーの世界」が、世界中で翻訳されたヨースタイン・ゴルデルは、ノルウェーの作家である。私は西洋哲学をもとに書かれた物語である「ソフィーの世界」よりも、その後に発表された「アドヴェント・カレンダー」の方が好きだった気がする。12月に入って、クリスマスまでの24日間、毎日一つずつ窓を開けていくアヴェベント・カレンダー。古びたカレンダーと出会った少年と、窓を開けるごとに語られる不思議な少女の物語。ただ、ほとんど忘れてしまっているので、機会を見つけて、もう一度、読んでみようかなと思っている。
最後に、スウェーデンと海峡をはさんで隣合う国、デンマーク。デンマークといえば、アンデルセン。19世紀の初頭に生まれ、「人魚姫」「裸の王様」「マッチ売りの少女」といった数々の童話は、世界中で読まれている。
国際アンデルセン賞は、1953年に創設された世界初の子どもたちが読む文学の作者に贈られる賞。世界的に栄誉ある文学賞にもちなむアンデルセンは特別な作家なのだろう。
日本は、19世紀後半、明治の世になる。その頃、日本には童話や児童文学がまだ無く、子どもが読む物語が渇望されていたときに、アンデルセンが紹介された。数々の文学者に大きな影響を与え、新美南吉は、日本のアンデルセンになることを願った。アンデルセンの物語は文学者だけでなく、表現者にも大きなインスピレーションを与えた。いわさきちひろは生涯にわたり、アンデルセンの物語の水彩画をたくさん描いた。<下に続く>