知多半島の中央より少し南に位置する、武豊町自然公園。昨年12月、例年のごとく新しい観察地を探して各地を回っていて、これまで気になっていたが訪ねたことが無かった、この自然公園を歩いてみた。その日は、広くて植物の変化に富んだ良い森だな、という印象だった。そのうちに、また来よう、と思いながらも、今年の5月まで再訪する機会がなかった。
春になり、5月に訪ねてみて、驚いた。松林でハルゼミが鳴いていたのである。ハルゼミは新美南吉の童話にも「松蝉」という名で登場し、春を代表する昆虫である。一斉に鳴いては消えてを繰り返す、柔らかな蝉しぐれは、かつて身近な「春の音」だったが、ハルゼミの生息する松林は、知多半島に限らず、松枯れや伐採によってずいぶん減少している。毎年気にしていて、ようやくここで音を聞くことができた。松の木の上の方で鳴いているので、なかなか姿を見ることができないが、たまたま生きているオスも下に落ちていた。
そんなきっかけが一つあると、途端に、その森が大切に思えてくる。これも、縁なのだと思う。そうしてこれまで、毎年のように、少しずつ観察地を増やしてきた。
半年近くが経ち、自然公園も親しみある観察地になってきた。訪ねる度に、その時々の発見があって、楽しい。これまでの印象的な出来事を記しておくと、5月には、ヒバカリと出会った。田んぼの近くに暮らす、体長40センチほどの小型のヘビで、オタマジャクシなどを食べる。家に連れて帰って来たが、近くにオタマジャクシがいるような場所は無い。思案していると、市内の緑地の水路に、ウシガエルのオタマジャクシがいるということで、大変有難いことに、それを持ってきて頂き、エサにした。だが、とにかく食べる量が多いので、武豊に返すまで大変だった。同じ日にルリタテハの幼虫も連れて帰ったが、こちらは家で蛹になった。だが、5カ月近く経った今も蛹のままである。羽化はもう難しいかもしれない。
6月の田んぼには、コオイムシがいたり、ゲンゴロウの仲間やマツモムシが泳ぎ回っていたり、にぎやかな田の風景があった。トンボも夏にかけて数多くあらわれた。「夏の観察会」では、「カブトムシを見つけたい」という小学2年生の男の子が参加してくれた。カブトムシは見つからなかったが、コナラの木にノコギリクワガタを見つけて、みんなで喜ぶ。アカガエルと出会い、海の見える展望台がある広場の東屋で、そろってお弁当を食べ、真っ赤なホシベニカミキリも見つけて、のどかで楽しい雑木林の散策となった。
7月。瀬戸で変形菌の調査をされている先生と一緒に変形菌を探した。森の環境、植生を気にしながら、落ち葉の積もる林床を確認して歩く。探している珍種、ツツスワリホコリは発見できなかったが、変形菌という、気にしていなかった存在に目が向くきっかけとなり、その後、ムラサキホコリの仲間、バークレイホネホコリ、エダナシツノホコリ、ツノホコリ、アカモジホコリ、シロウツボホコリ(?)、ムラサキカビモドキ(細胞性粘菌といい、変形菌ではないのだが、変形菌に似た存在)など、少しずつ見つけられるようになってきた。
8月には、たくさんの昆虫と出会った。とくに10日は多く、古窯跡付近では、木の上からスズメバチが絡み合いながら落ちてきて、驚いた。地面に落ちてからもしばらく組み合っていたのだが、喧嘩をしていたのだろうか? 木の幹にはヨコヅナサシガメの幼虫。ひらひらと透き通る翅で林内を舞っていたのは、クサカゲロウ科の最大種、アミメクサカゲロウ。他のクサカゲロウよりも明らかに大きいので、すぐに判別できる。
この日に確認したトンボの仲間は、ウスバキトンボ、ヒメアカネ、アキアカネ、コノシメトンボ、シオカラトンボ、オオシオカラトンボ、コシアキトンボ、ハグロトンボ、ギンヤンマ、カトリヤンマ、ホソミイトトンボ。チョウの仲間は、ルリシジミ、ムラサキシジミ、ウラギンシジミ、キアゲハ、アオスジアゲハ、キマダラヒカゲ、コノマチョウ、イシガケチョウ、コミスジ、イチモンジセセリ、テングチョウ、種は確認できなかったが黒いアゲハチョウ。ほかに、ヤブキリ、ツマグロバッタ、クサギカメムシなど。別の日には、直翅類ではあるが、鳴くための翅をもたないハネナシコロギスが草むらの葉の上にいた。
10月になり、林内ではツクツクボウシが、まだ鳴いている。昼間でもハラオカメコオロギやクチキコオロギ、カネタタキの音が聞こえてくる。クサヒバリの音も樹上から聞こえるようになった。秋の森。まだまだやぶ蚊が多いのが悩みどころであるが、晩秋から冬にかけて、どんな出会いがあるのか楽しみにして、また訪ねようと思う。