自然を見る眼

宮本常一(1907~1981)は、現在の周防大島出身の民俗学者である。アカデミズムとは一線を画しながら、フィールドワークを重んじて、日本各地を歩き調査した。写真による記録の有用性にも着目。各地で撮影した写真の枚数は10万枚を超える。「みる」「きく」「あるく」をフィールドワークの基本とし、生涯にわたり、実践し続けた人物である。少し上の世代の民俗学者である柳田国男とともに、一般的にもよく知られていると思う。

宮本常一が53歳のときに書いた、「自然を見る眼」という文章がある。私たちの日々の観察にも通ずる、示唆に富んだこの文章について、自分を重ねて考えてみようと思う。この文章は、平凡社のスタンダードブックス・シリーズ「宮本常一」(2019)に収録されている。25ページほどの長くはない文章なので、是非、探して読んでみてほしい。

書かれたのは、1960年。当時の時代背景を簡単に記しておくと、45年に戦争が終わり、戦後復興の時代を迎える。55年頃から始まる高度経済成長期は、東京オリンピックが開催された64年に折り返し、73年頃まで続く。1960年は、海や河川の水、空気などの汚染による健康被害、いわゆる公害が全国的に表面化し始めた時期。また、カラーテレビが登場し、普及し始めたのも、この頃である。

文章の冒頭で、宮本常一はまず最初に、動物学者であり、大森貝塚の発見者であるモールスの観察を説明する。カラスが日本人の近くに寄ってくることに驚くモールスの話を引きながら、人間はかつて野鳥と仲が良かったことについて考える。地方の文化や伝承、神事、子どもたちが聞く昔話などに目を向けて、いくつかの例示をしながら、人と鳥との関わりを語る。人は親しみを持って鳥と接し、「人間につながるもの」として観察を深めていた。それは鳥に限らず、獣や昆虫、植物に対しても同様だった。翻って現代は、そういった生きものたちが、害虫、害獣といった駆除の対象となり、さらには対象ではない生きものまで、著しい減少を見せ始めていると憂慮する。

そこから60年、時代の進んだ現代に生きる自分の体験に重ねてみると、生きものが著しく減ったという実感は乏しい。つまり、私が観察を始めた頃には、減少しきったのである。「かつては、あそこにいた」という話を基に、四季を通じて同じ場所に通い、「まだ、いる。ある」ことを確認する。当たり前に、人の身近にあったものも、現代では、ある程度場所を知っていないと出会わなくなったのだ。かつて以上に増えたというケースは、あるのだろうか。

減少の背景には、「科学的」が意味することの変容があると、宮本常一は考える。対象を冷徹に見つめ、客観的事実を引き出し、法則や構造を見出すことが科学的なのではない。自然が激減している現状を見て、人間として貴重な何かが、「科学的」という名のもとに失われつつあるのではないか、と憂う。もっと自分自身の方法と努力によって生み出された知識で語られなくてはいけない。そのために、できるだけ自然そのものに多くふれる機会をもたなければならない。古来、人々は、自分たちの生活を取り巻いている自然を見る眼を、こまかに、切実にしていくことで、本質を見極めてきた。

私は文学畑の人間なので、科学的な態度に関しての明快な考えや言葉は、持ち合わせていない。けれども、宮本常一が伝えようとしたことは、よく理解できる。

日本人は、もともと自分で得た知識を大切にしてきた。日本の少年たちの自然観察のするどさにモールスは舌を巻いたそうだ。それが西欧に比しての文化の立ち遅れを取り戻すために、勇み足のような知識の習得を植え付け、資本主義的な経済のシステムがあおりたてている、と嘆く。宮本常一の言葉は、半世紀以上が経った今、どう受けとめられるだろうか。

それでは私はと言えば、身近な自然を考えるための「文学的アプローチ」を「椋鳩十を読む会」で実践している。椋鳩十の書いた物語を読み、自身の体験などと重ねながら、話し合う。観察会とは違った話が聞けて、新鮮な発見がある。自分が知らない時代や環境を知る方たちの話は、フィールドワークを通して得てきた知識とも、よく重なり合うのだ。

観察会では、本来の意味での「科学的アプローチ」を、参加した方たちと実践して行けたらと思っている。まずは自然そのものにふれること。観察地がどこであっても、同じ自然を見る眼で、本質に近づいていきたい。その積み重ねによって、20世紀でも、それ以前でもない、21世紀の自然観が私たちの中に培われると期待して。

 

椋鳩十を読む会・3月

奇数月第3土曜日に開催している「椋鳩十を読む会」。椋鳩十の文学作品を読み解きながら楽しく活動しています。今回は、以下の内容で行います。

〇日程/2025年3月15日(土)13:00~16:30

〇場所/昭和生涯学習センター・第2集会室

〇アクセス/名古屋市営地下鉄「御器所」駅下車。2番出口を出て、御器所ステーションビルを右折し真っすぐ5分ほど歩くと着きます。有料駐車場有り(1回300円)。

地図はこちら → 昭和生涯学習センターの場所

〇参加費/大人500円、子ども(小学生以下)250円 ※資料代、会場代に使用

〇内容/①話題「4/6の喬木村訪問<阿島祭り>について」 ②歌の練習 ③話題「狐について」 ④課題図書「金色の足あと」

〇備考/・「金色の足あと」は、同タイトルの作品集(理論社)があるほか、「椋鳩十のキツネ物語」(理論社)にも収録されており、いくつかの本で読むことができます。・歌の練習は、これまでの曲をおさらいします。楽譜の無い方は、当日お渡しします。・初めての方もお気軽にご参加ください。

 

終了しました。ご参加いただきありがとうございました。

 

3月・4月の観察会スケジュール

3月の観察会スケジュールが決まりましたので、お知らせします。3月は「アカガエルのたまごをみる」(3/9)が追加になりました。また、4月には、恒例の喬木村「阿島祭り」訪問と、名古屋市内での観察会を一つ予定しています。季節が進むにつれて、内容が盛りだくさんになっていきますが、無理のない範囲で、ご参加いただけますと幸いです。

<3月の観察会スケジュール>

「アカガエルのたまごをみる(再)」

日時:3/9(日)  13:30~15:30頃終了予定 ※終了しました。

場所:美浜町奥田・恋の水神社

◇2/16(日)に開催した「アカガエルのたまごをみる」ですが、まだたまごを確認することができませんでしたので、あらためて、開催します。アカガエルは、立春が過ぎ、数日間の雨が続く時期に冬眠から一度目覚めて、交尾・産卵します。田んぼにあらわれたアカガエルの卵塊を観察し、田んぼ周辺の春の兆しを探します。

 

「第8回 椋鳩十を読む会」

日時:3/15(土) 13:00~16:30 ※終了しました。

場所:昭和区・昭和生涯学習センター第2集会室

◇奇数月第三土曜日に開催している「椋鳩十を読む会」。今回は、キツネのお話「金色の足あと」を読むほか、椋鳩十の詩に曲をつけた歌の練習をします。また、4/6(日)の喬木村「阿島祭り」訪問についての詳細をお知らせします。

 

「春の観察会 in 内海」

日時:3/23(日)  13:30~16:00頃終了予定 ※終了しました。

場所:南知多町内海

◇春の観察会は、南知多町の内海地区で開催します。内海には、海には岩礁の広がる海岸、山にはウバメガシの森があり、季節ごとに異なった自然の風景を楽しむことができます。海沿いを起点にして、山と海、両方の春の様子を観察します。

 

 

「第25回 西味鋺観察会」

日時:3/29(土) 10:00~12:00 ※終了しました。

場所:北区・西味鋺コミュニティセンター

◇名古屋市北区で開催している「西味鋺観察会」。今回は、学区を流れる新地蔵川沿いを歩きながら、春の草花や川にやって来る野鳥などを観察します。

 

 

<4月の観察会スケジュール>

「椋鳩十を読む会<野外活動>阿島祭りを訪問する」

日時:4/6(日) 場所:長野県喬木村

 

「天白渓観察会 1」

日時:4/29(火・祝) 場所:天白区・八事裏山

 

「第26回 西味鋺観察会」

日時:4/19(土) 場所:北区・西味鋺コミュニティセンター

 

観察会「アカガエルのたまごをみる(再)」のお知らせ

2025年、最初の知多半島での観察会は、「アカガエルのたまごをみる」です。先日、昨年のたまごの出現時期に合わせて、観察会を開催したところ、まだ一つもあらわれていませんでした。田の周辺には、ふきのとうやヨモギがあり、花ではホトケノザ、ハルノノゲシ、オオイヌノフグリなどが咲いていて、少しずつですが、春に向かっていることを実感できる観察会となりました。

さて、2024年の記録では、2月12日に最初の卵塊を確認しています。2月17日の観察会では、大小40個の卵塊が田んぼにあらわれていました(写真)。3月2日には、同じ場所でオタマジャクシが泳いでおり、田んぼにはオタマジャクシを狙う昆虫やクモなどが動き始めていました。今年、同じ時期に卵塊があらわれていないのは、1月下旬からの寒波と、立春以降に降る連続した雨が、まだ降っていないことが理由として考えられます。

3月9日(日)、あらためて、観察会「アカガエルのたまごをみる」を開催することにしました。是非、ご参加ください。

 

〇日程/2025年3月9日(日)

〇時間/13:30集合~15:30頃、終了予定 ※場合によっては30分ほど延長することもあります。余裕をもってご参加ください。

〇集合場所/美浜町・恋の水神社駐車場 地図はこちら

※自動車の場合は、「恋の水神社」駐車場にお越しください。知多半島道路「美浜IC」を出て5分ほどです。電車の場合は、最寄りが「知多奥田」駅になります。13:13着の列車でお越しいただけましたら迎えに行きますので、その旨お知らせください。駅からは車で3分ほどです。

〇費用/無料

〇その他/観察会の前に、昼食をとられる方は、各自ご用意ください。トイレは神社にあります。田んぼ道を歩きます。ぬかるんでいるところもありますので、汚れてもよい、歩きやすい靴でお越しください。寒さが予想されますので防寒対策をお願いします。メモを取る場合は、筆記用具をご用意ください。

★予定の変更など/開催日の前に、予定の変更など、ご連絡をする事があります。その場合は、お申し込みいただいたメールアドレスにご連絡しますので、お手数ですが、当日の前に一度メールをご確認ください。よろしくお願い致します。

 

終了しました。ご参加いただきありがとうございました。

 

鵜の隊列

熱田に暮らし、知多半島をめぐっていると、鵜が空を飛んでいるところをよく見かける。熱田に限らず、市内の川や海などに来るので、身近な鳥である。鵜の仲間には、カワウ、ウミウ、ヒメウがいるのだが、見分けるのは難しい。海鵜、川鵜という名前に従って、海で見かけるのでウミウと思ってしまうが、知多半島の海岸は、カワウが多い。また、岐阜の長良川の鵜飼いにはウミウが使われている。昨年、海で鳥の観察をしていて、「ヒメウも混ざっていますね」と教えていただき、冬にやって来る一回り小さい、ヒメウを知った。

鵜の仲間のなかでも、カワウは、人に身近な存在で、知多半島はカワウの繁殖地として知られている。大正時代に全国に広く分布していたカワウだが、エサとなる魚が川から姿を消したため、1970年代には、3000羽まで減少した。彼らの繁殖地(コロニー)は、知多半島を含め、全国に数か所しか無くなってしまう。だがその後、河川の水質が改善し、魚が川に戻ってくると、カワウたちは、たくましく増加していく。現在では全国にコロニーが確認されており、15万羽以上いるという話である。

確認している知多半島のカワウのコロニーは、3か所。一つは、1934(昭和9)年に鵜の繁殖地として天然記念物指定された、鵜ノ池。この地域では、鵜の糞が、リン酸を多く含んでおり、質の良い農業用の肥料になるということで、村全体で糞を集めて売却し、その収益を村の生活に還元し、臨時収入としても分け合ったそうだ。天然記念物指定を受けるための申請書にも、糞の肥料としての価値の高さが記されていたという。もう2か所は、鵜ノ池と知多半島道路を挟んだ反対側にある、菅田池と菅苅池。菅田池では、コロニーのすぐそばまで近づくことができる。2月頃になると、子育てが始まり、周辺の雑木林や池の畔は、糞で真っ白になる。雑木林を歩くと、大きな声で「グルルルッ」「ギュワッ、ギュワッ」という鳴き声が樹上から聞こえてくる。エサや、巣の材料を咥えて戻ってきて、再び飛び立っていく親鵜と、巣の中でエサを待つ、子ども鵜。冬から春にかけて、一番にぎやかな季節だ。

カワウは、留鳥または漂鳥とされ、一年中見かける。早朝にエサをとるために、隊列を組んで移動する。熱田の周辺では、七里の渡しや堀川によくやってきているが、その数がとても多い時が、たまにある。一昨年の春には、名古屋国際会議場で観察会報告会を開催した帰りに、数百羽のカワウが飛来していた。堀川の水面を覆う、鵜の群れ。ボラの群れが海から遡上していたのだろうか。潜水を繰り返し、魚を獲っていた。

留鳥とは、一年を通じて、同じ地域に暮らす鳥のことを指す。一方、漂鳥とは、季節によって国内で生活の場を変える鳥のことを言う。北日本から西日本へ移動したり、山から平地へ移動したり。ウグイスやモズなどが知られ、スズメにも、長距離を移動する個体群がある。

2021年12月。初夏に海浜植物の花を観察している常滑市の海岸で、冬の海を歩くという観察会を行った。風もあって寒い日だったが、子ども達も参加して、サクラガイやサルボウなどの貝殻を拾ったり、海岸に生える植物の、木の実や、冬越しの様子を観察した。観察会が始まる前、浜には、優に千羽を超えるカワウが集まっていた。百羽以上が一団となり波打ち際にいて、海沿いにいくつも一団の塊がある。カワウたちは一様に沖を見ている。最初に遠くの一団が沖へと飛び始めた。先には、始まったばかりの海苔養殖の粗朶(そだ)が立てられており、周囲を小舟が走る。粗朶の少し手前の海上すれすれを、黒い鵜の列が伸びていく。一団が飛び立ったら、それを追うように、次の一団が飛び始める。しばらくして、また次の一団が飛ぶ。そうして鵜の大群は、伊勢湾の沖へと飛び去って行った。

こういうことはよくあるのだろうかと、調べてみると、他の地域でも、まれに見られることがあるそうだ。ただ、頻繁にあるわけでは無く、毎年見る光景でも無いらしい。カワウは漂鳥でもあるので、暖かい南方へと集団で移動していったのだろうか、と考えている。

2月上旬、そろそろ本格的に観察シーズンが始まる。その前に、自然と文学についての見識を深めておくため、東京・世田谷にある文学資料館を訪ねることにした。日本橋、新宿、世田谷と丸一日、移動するため、朝、早めに家を出る。休日で人のいない教育センター前の道を、駅に向かって歩いていると、正面の空に、鵜の隊列があらわれた。菅田池では、子育てを始める時期だ。Ⅴ字を描いた隊列は、立ち止まって見上げた私の頭上を過ぎながら、直列に変わり、そのまま乱れること無く、後方の空へと消えていった。

 

 

2025年「はなやすり観察会」年間スケジュール

2月になりました。まだまだ寒い日が続いています。知多半島のフィールドを訪ねると、川やため池などで鳥たちが活動しているのを見るほかは、生きものの動きは少なく、野の花もまだ多くは咲いていませんが、暦の上では立春となり、春が始まりました。今年も観察会のシーズンの到来です。2月から12月まで、さまざまな観察会を予定しています。私たちの身近に息づく自然に目を向けて、その不思議や美しさを楽しみましょう。ご参加をお待ちしております。(写真はモンキチョウ、4月撮影)

<観察会年間スケジュール>

① 2月16日(日)「アカガエルの卵をみる」/美浜町・奥田の田んぼ

② 3月23日(日)「春の観察会」/南知多町・内海

③ 5月6日(火・祝)「海浜植物の花をみる」/常滑市・小林町の海岸

④ 5月25日(日)「初夏の観察会」/武豊町・自然公園

⑤ 6月7日(土)「ヘイケボタルの観察会」/美浜町・奥田の田んぼ(予定)

⑥ 6月15日(日)「海岸の生き物をみる」/南知多町・つぶてヶ浦(予定)

⑦ 8月23日(土)「鳴く虫の観察会1」/場所未定

⑧ 9月14日(日)「鳴く虫の観察会2」/阿久比町・田んぼ

⑨ 10月19日(日)「秋の観察会」/武豊町・自然公園

⑩ 11月22日(土)「秋の観察会」/南知多町・内海(予定)

⑪ 12月7日(日)「冬の観察会」/場所未定

※上記日程は変更する場合がございます。